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重要文化財彦部家住宅館長 彦部 篤夫さん(桐生市広沢町)

【略歴】群馬大大学院工学研究科修了。彦部家49代目。三洋電機に31年間勤務し、05年5月に退職。現在、全国重文民家(所有者)の集い常任幹事。

美しい郷土再生の礎に

◎重文民家

 「美しい国日本」をキャッチフレーズに安倍新政権が誕生しました。未来を担う子供たちが質の高い教養を身につけ、豊かな人間性と創造性を備えた規律ある人間に育てるため、教育改革に取り組むとの発表がありました。この原点に帰った教育事例として、重文民家は格好の材料になろうかと思います。

 ここで、重文民家所有者の立場で当家を「歴史」「文化」「自然」を切り口として検証してみます。彦部家千三百年の「歴史」は皇親、公家、武家、農民、機業家と時代の変遷に伴い、ときには時代の波頭に立った活躍を成し、今日に至っております。

 また、「文化」づくりでは、春の茶会、秋の紅葉狩りに加え、今年はさらに四回シリーズで地域の幼児からシニアの皆さんに至るまで幅広く楽しんでいただく「語り部の会」を開催しています。茶会では歴史を醸し出す異空間の中、伝統文化の茶道をお楽しみいただき、秋の紅葉狩りでは赤く色づく紅葉の庭園内を散策していただく一方、当家に伝わる秘宝の公開、アーティストによる芸術作品の発表、各種コンサート等々、毎年工夫を凝らした内容の恒例行事として定着しています。

 そして「自然」では、江戸時代中期四十代の至輔(のりすけ)の覚書「屋敷の大木、庭の木、手臼山の松などを大切にし、決して伐きってはならぬ、但ただし天下国家が必要とする時には出し惜しみしてもならぬ」の家訓を代々実直に守り、現在、その庭園には春夏秋冬、四季折々の草花が咲き乱れ、ときにはタヌキ、カモ、ホタル、サワガニ、各種野鳥が集い、それこそ野生の宝庫となっています。

 今後、このような文化遺産を来館者の癒やしの場、歴史探究の場、文化創生の場、ネットワーク構築の拠点としてさらに活用し、郷土の皆さんに愛し親しんでいただく機会にしていきたいと考えています。

 私は毎年「全国重文民家(所有者)の集い」に参加し、各重文民家の保存活用の体験談を聞くにつけ、「私財は国重要文化財に指定された瞬間から国の宝に変ぼうし、その所有者は保存から公開活用まで任された番人である」との認識を深め、「各所有者は決してぜいたくはしていないが、一本筋の通った凜(りん)とした姿勢を持ち合わせている」とも感じております。

 現在、私は各県の協力を得て、本県をはじめ、関東近隣五県に点在する重文民家二十数軒を訪問し、各所有者と文化財の意義から将来ビジョンに至るまで幅広く意見交換しました。この地道な活動から各重文民家に伝わる独自の文化財の存在を知り、その保存活用のノウハウを共有し、今後この体験を「生きたネットワーク資料」として全国展開していきたいと考えています。

 これまで一年間、彦部家の歴史をキーワードに文化財の意義を傍証、考察してきましたが、現在に生きる私たちには先祖から託された有形無形の文化をさらに深耕させ、美しい郷土再生の礎として育て、未来に伝える使命があると考えております。






(上毛新聞 2006年11月11日掲載)