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県立文書館長 秋池 武さん(吉井町下長根)

【略歴】国学院大文学部史学科考古学専攻卒。2001年4月から現職。県市町村公文書等保存活用連絡協議会長。博士(史学)。著書「中世石造物石材流通の研究」。

合併後の公文書

◎後世に引き継ぐ制度を

 七月三十日付の「視点」で、前橋国際大学名誉教授の石原征明氏が合併時の公文書等の歴史史料保存継承に万全を期すことの必要性を提言された。

 県と市町村で組織している県市町村公文書等保存活用連絡協議会では、平成十四年以降、合併時の公文書(非現用)が適切に継承されるよう活動を推進してきた。合併十四市町の事務が一段落した今年九月、その後の保管状況を調査したので、この結果をもとに公文書(同)の保管状況と今後の課題についてまとめてみた。

 合併十四市町の公文書(同)について、「旧町村の公文書保存」は(1)すべて引き継ぎ、保管している85・7%(2)引き継いだものを選別収集、残りは廃棄14・3%。「その保管状況」は旧町村の役場等に分散保管100%。「引き継ぎ公文書の目録があるか」は(1)ある50%(2)ない35・7%(3)未記入14・3%。「今後の取り扱い予定」は(1)整理・一括管理により利用に供する42・9%(2)計画検討中28・6%(3)未検討21・4%(4)未記入7・1%―であった。

 以上は調査項目の一部であるが、合併時の公文書(同)の引き継ぎは、関係者の努力により一応、新市町の管理下に置かれていることが明らかになった。しかし、これらは旧町村の庁舎などにそのまま保管される分散方式であることや、目録が未整備のものが含まれることなどから、当面、一元的な管理に万全を期すこと、加えて目録の充実、選別収集などの基礎作業が必要と考えられる。

 また、今後の見通しについては「検討中」「今後検討」と記した市町が半数を超えるが、検討する計画を持たない市町も含まれている。

 この調査でも、閲覧利用までになお検討課題が多いことが指摘されているが、この制度は地方公共団体の責務(公文書館法)として取り組まなければならない事項でもあり、早急な対応が望まれる。

 公文書のうち、必要なものを歴史史料として後世に伝えることの重要性は、公文書が地域や住民の「履歴」であり、この地に生活する人々の健康や安全情報として、教育、研究、開発、行政施策の参考、検証史料などとして、またこの地にかかわった人々の「心」のよりどころとして、唯一の体系的史料だからである。

 九月二十六日に発足した安倍内閣で、行政改革相に本県選出の佐田玄一郎衆院議員が就任した。その担当事項に「道州制」が含まれている。今後予想される市町村合併も含め、行政区画の検討はまだまだ継続される状況にあるが、これらと並行して地域や住民の「履歴」や「心」が後世に引き継がれる制度の充実が不可欠である。






(上毛新聞 2006年11月12日掲載)