視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
砂防・地すべり技術センター理事長 池谷 浩さん(東京都世田谷区)

【略歴】京都大農学部卒。建設省に入省し、砂防課長や砂防部長などを歴任。現在、中央防災会議専門委員、砂防学会副会長を務めている。農学博士。栃木県生まれ。

火山県

◎日ごろから防災対応を

 運動会の季節が終わったが、子供のころ群馬で育った筆者の中学時代、運動会は五つのグループ対抗戦で行われていた。

 五つのグループは色別に分けられ、それぞれに上州の名山の名が付けられていた。赤は赤城山、緑は榛名山、黄は浅間山、紫は妙義山、そして白は草津白根山であった。誰が考えたのか調べてないが、まことに山を色でうまく表現している。

 外周を高い山に囲まれた群馬県、県内には火山が多く、先の五山も妙義山を除く四山は現在わが国で定義された活火山百八のうちの四火山である。このほか、日光白根山を含め本県には五つの活火山が存在している。

 火山のおかげで群馬県下には多くの温泉がわき出ている。また火山噴火で噴出した火山灰は質の良い農作物を作り出している。このように本県は観光面でも農業の面でも火山の恵みを享受している。

 一方、わが国では雲仙普賢岳、有珠山、三宅島(雄山)などの活火山で噴火活動が活発化して、住民の日常生活に大きな影響を与える、いわゆる火山災害が発生したことはよく知られている事実である。

 上州でも天明三(一七八三)年、浅間山が大噴火し、上州と信州を結ぶ交通の要衝の地であった旧鎌原村(現嬬恋村)が消滅する大災害が発生している。このときの火山活動に伴って発生した鎌原火砕流は山腹の土砂を巻き込んで、秒速百メートルというとてつもない速さで流下した。火砕流の流下に気づいた住民は、急いで近くの小高い丘の上の観音堂を目指し駆け上った。そして、その丘の上にたどり着いた九十三人のみが助かったのである。

 その後の鎌原村の復興は地域の住民と行政が一緒になって新しい家を造り、地域をつくってきた。先人の努力は現在、首都圏の人々の食材、キャベツの里としての嬬恋村に引き継がれている。

 天明当時とは異なり、県内の五つの活火山地域には県民の約半数にあたる百万人が生活している現在、ひとたび大規模な火山噴火が始まると、火砕流や溶岩流により、広い範囲で悲惨な被害が生ずることが予想される。そこで火山の恵みに感謝するとともに、いざというときの防災対応を日ごろから考えておく必要がある。

 活動度の高い浅間山については関係市町村が「浅間山火山防災マップ」を作製し、住民に配布している。このように活火山の情報をいろいろな形で行政と住民とが共有するシステムができてきている。

 上州は火山県である。多くの人々が毎日、温泉や農業など火山の恵みを受けて生活しているところでもある。今後も活火山と共存し、いざ火山噴火という時にもあわてずに被害を最小限にするために、公表されている火山防災マップで危険区域を知るなど、行政が出す防災情報を共有できるよう日ごろから上州の活火山に目を向けておきたいものである。






(上毛新聞 2006年11月17日掲載)