視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
駒沢大非常勤講師 若林 宏宗さん(太田市東長岡町)

【略歴】駒沢大大学院修士課程修了。高校教諭、県教委勤務を経て桐生高校長で退職。太田情報商科・太田自動車整備の両専門学校長。著書に「南極大陸まで」など。

地理教師の宿命

◎各地見てから教えたい

「地理教師 見てきたような ウソを言い」という川柳がある。地理教師は日本や世界の各地を教えなければならないが、実際には行ったことがない土地でも「見てきたように」教えなければならないことを皮肉った川柳であろう。「…のようだ」「…と思う」では迫力がない授業になってしまう。従って、ウソとは言い過ぎにしても、勢い「見てきたように」教えることになってしまう。

 私がこの川柳を知ったのは大学二年生のころで、高校の地理教師を志望して間もなくだった。なるほどとは思ったが、ただ、日本や世界の各地を全部見て回ることはできないし…地理教師の宿命として、ずっと「ウソを言い続ける」のかと思うと、気が重くなった。

 しかし、歴史の教師もはるか過去のことを、いかにもその時、その場にいたように教えている。地理も歴史も、信ぴょう性のある資料、より正確な教材などから「現地」「その時」に近い知識を得て教えてはいるが、厳密に「見てきたか」「その時、その場にいたのか」と問われれば、答えに窮する。高校のどの教科、科目でもこのような弱点というか、教えにくい面があると思う。そこを先生方はいろいろと工夫し、教材を精選し、蓄積して対応している。

 さらによく考えたところ、時間をさかのぼることはできないので、歴史教師は絶対に「その時、その場」に行けないが、地理は現在を扱う科目なので、地理教師は現在の空間を克服する努力さえすれば「現地を見てきて本当のことを教える」ことができるのである。そこで私は地理教師の宿命を克服するため、できる限り「見てきて教えられる」ように各地を積極的に旅することを心掛けた。

 まずは大学二―三年のとき、自転車で日本全国を回った。この始まりは、高校三年時に変速ギアのない普通の自転車で、群馬から房総半島を一周した無銭旅行であった。翌年の大学一年の時にも、同じく普通の自転車で箱根を越えて伊豆半島を一周した。二年では、変速ギアのあるサイクリング車で、東京から往復して四国を一周した。そして、三年の夏と年度末の春に東北日本と西南日本に分けて自転車による日本一周を達成した。

 この自転車による全国走破では、通過の道・府・県庁に寄って、その道・府・県の自然や産業、県民の特性などを聞き取り調査したが、これは後の地理授業で大いに役立った。

 日本を全部見た後、大学院時に学術調査で初めて海外へ出掛けた。昭和四十三年であったが、まだそのころは海外へ行く人は本当に少なかった。そして、その翌年から本県の高校の地理教師となった。以降、もちろん本務を第一としたが、時間と費用をひねり出して「見てきて教えられる」ように、できる限り世界各地へ出掛けた。母からよく「事の達成は心掛け次第」と言われて肝に銘じていたが、いつの間にか南極大陸を含む地球上の全七大陸を訪れていた。次回からはそれらのことについて記したい。






(上毛新聞 2006年11月25日掲載)