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県体育協会クラブ育成アドバイザー 青木 元之さん(沼田市戸鹿野町 )

【略歴】日本体育大卒。水泳で国体に2度出場。県内小、中学校教諭、渋川金島中教頭、県体協・スポーツ振興事業団共通事務局次長を経て、2005年から現職。

スポーツと教育

◎ガキ大将文化を今こそ

 教育とは、孟子の「天下に英才を得て之(これ)を教育す」という言葉に基づいて、教と育を連結することにより、「教え育(はぐく)み善い子にする」と、言葉に幅を持たせている。そして、教育は知育・徳育・体育からなり、一つの学習行動の中からバランスよく育まれなければならない。知・徳への絶大なる影響を及ぼす「脳」は、体の一部であり、特に体育はその「脳」を発達させるためにも必要不可欠な要素となる。

 学校教育には体育教科が位置づけられ、教材としてスポーツに頼るところが多い。スポーツ振興法では「『スポーツ』とは、運動競技及び身体運動(キャンプ活動その他の野外活動も含む)であって、心身の健全な発達を図るためにされるものをいう」と定めており、体育に限らず教育的見地からしても、心身の健全な発達手段としてのスポーツは学習における大切な場面設定である。

 NHKテレビ「おはよう日本」で、脳の前頭前野の働きを活発にするなど、スポーツによる心身への効果が取り上げられていた。山梨大学の研究で、ジャンプや前転ができない幼児を三カ月のプログラムにより、ジャンプの着地感覚と前転の倒立感覚を養った事例が紹介された。その中で、「以前は家庭や地域で育てられていたことです」と説明した中村和彦助教授の言葉が強く印象に残り、偏差値教育以前に多くの人が体験したガキ大将文化がよみがえった。

 ガキ大将で中学二年の兄が、子分を引き連れて川で遊ぶ。副ガキ大将が小学二年の私を川に放り投げる。アップアップしながら、もがく私を川下で兄が抱き上げる。泣き出しそうな私に兄が言う。「ここまで来られたぞ。すごい。泳げた、泳げた」と。副ガキ大将も上流で「やったあ、泳げた」と拍手する。何とも頼もしい兄の腕の中で恐怖心が打ち消され、「泳げたんだ」という自信とともに、たくましさがみなぎってくる実感があった。

 確かに中村助教授が言うとおり、身のこなしやたくましさの基本は、学校でなく家庭や地域の生活の中で培われたように思える。

 今では交通事情や塾・テレビ等の影響による生活環境の変化でガキ大将文化は昔のこととなってしまったが、基本的なしつけや運動能力を育んで学校の集団生活の場に送り込むことは家庭や地域の責任ではないだろうか。親でさえ大変な状態のままで、三十人もの児童を小学校に任せては、担任の先生にとっては酷であろう。

 現在、文部科学省のスポーツ振興基本計画に基づき、教育行政や体育協会等の支援を受け、地域において心身の健全な発達を図るスポーツ活動の場を多世代で設定する、総合型地域スポーツクラブが育成されている。総合型という難しい呼び方だが、大人が中心になって近所の人たちを引き連れ、地域ぐるみでスポーツ活動に取り組む姿にガキ大将文化が重なってくるのは、私だけだろうか。






(上毛新聞 2006年11月27日掲載)