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太田国際音楽セミナー事務局長 栗山 貴美子さん(太田市飯田町)

【略歴】コンセルヴァトワール尚美などでピアノを学び、数々のコンサートや音楽セミナーを企画、地域への定着を図る。ピアノ教室主宰。太田クラフィーア研究会長。

太田国際音楽セミナー(上)

◎若者は可能性に挑戦を 

 今回で九回目となる太田国際音楽セミナーは、去る十月十三日より五日間、太田市において開催された。今回も全国各地からピアニストを志す若者たちが太田に集い、有意義な時を過ごし、多くの感動とともにセミナーは終了した。

 第一回セミナーは今から九年前、太田市制五十周年記念事業の一環として開催された。これは、筆者の知人で日本に留学経験のあるハンブルク国立音大のシュミッツ教授の尽力により実現したもので、ピアノ、フルート、声楽等多岐にわたる内容で、六人のドイツ人音楽教授が来日した。初めてのセミナーということで、受講生が集まるかという不安はあったが、北海道から沖縄までの広範囲からの応募があり、追加レッスンを設けたほどであった。これを機にドイツへ留学した者も多い。

 第二回からは受講者の多かったピアノ部門に絞り、専門性を重視した内容にして講師はオランダ、オーストリア、ロシア、アメリカ、カナダから招しょうへい聘し、日本人講師にもお願いし現在に至っている。

 事務局長の仕事はあらゆることに目を配らねばならないが、一番の喜びは、遠路はるばる太田へ目を輝かせ自己研さんのために来る受講生に会うことである。ときにはレッスンの後、涙ぐむ受講生のフォローも私の役目であるが、聴講も私自身、ピアノ教師として自己研さんの大切な時間である。

 第六回はバロック音楽をテーマに、ミシガン大教授のパーメンティア氏によるセミナーを開催した。バッハの講座で、氏が「この部分は、キリストが重い十字架を背負って歩いているところです」と解説された。くしくも第四回のセミナーにおいてグネーシン音大のトロップ教授もベートーベンピアノソナタのレッスンで、同じことを言われた。これは偶然の一致とはいえない普遍的真理が西洋音楽の内に存在していると感じる。

 西洋音楽のバックグラウンドには、キリスト教に基づく長い人間の歴史が存在する。人間の歴史は社会の歴史であり、また音楽の歴史でもある。今、社会問題となっている高校の歴史未履修について憂慮している。人間は長い歴史の中で文化をはぐくみ、芸術を育ててきている。歴史は人がつくるものであり、われわれの人生も歴史の一ページなのである。古い歴史をたどることは、今日をよりよく知ることができる。過去の歴史を学ばなくして、どうして未来につなげていくのか。われわれが直面している重要な問題である。

 近年、日本の経済発展とともに留学が可能になり、多くの若者が留学し、成果を上げている。もちろん、日本の中でも高度な勉学ができるが、実際、現地でその国の歴史、文化に触れ、日常生活の中で風俗や習慣等のさまざまな体験をすることは、音楽を志す者にとって重要なことであると思う。若者たちは無限の可能性を持っている。自分を信じ、恐れることなくチャレンジして、自身の道を歩んでほしい。人間はどんなことでも解決できる能力と創造力を持っていると信じている。






(上毛新聞 2006年12月1日掲載)