視点 オピニオン21
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県フェンシング協会理事長 吉澤 博通さん(昭和村貝野瀬)

【略歴】群馬大教育学部卒。沼田フェンシングクラブ代表。日本フェンシング協会評議員。県内小中学校に36年間勤務し、現在は昭和村立昭和中学校校長。

新しい競技力育成の形

◎フェンシングクラブ

 ユニバーシアード、男子フルーレ団体優勝―。日本のフェンシングにかかわる者すべてが待ちこがれた瞬間である。昨年、日本は初めて、大学生の世界大会であるユニバーシアードで金メダルを獲得したのである。

 今まで、オリンピックでメダルを取ってない種目と烙らく印いんを押され、選手強化費削減の危機にひんし、オリンピックでメダルを獲得することが至上命令として重くのしかかっていた。その暗雲を振り払う快挙であった。

 これは、部活動とは別にスポーツクラブが育てた選手たちによる快挙である。本県でも、昭和五十八年のあかぎ国体を照準に、その十年前から前橋、高崎、伊勢崎、太田、沼田の五市にフェンシングクラブができ、小・中学生にフェンシング指導を行っている。あかぎ国体で勝つためには、高校生になってからフェンシングを始めたのでは遅い。小学校段階から指導し、優秀な選手を発掘し鍛えようとしたのである。そのかいあって、あかぎ国体では少年男女とも入賞することができた。

 国体が終わって、昭和六十一年。当時、日本フェンシング協会の専務理事をしていた現県フェンシング協会副会長の浅井哲男氏の要請を受け、日本のフェンシングの競技力向上を目指し、第一回全国少年フェンシング大会を高崎市で開催した。この大会で、高崎フェンシングクラブの生沢隼人選手が小学校男子の部で優勝し、以後、群馬は今でもトップレベルを維持している。

 ところで、学校体育にある種目は、中学校で部活動として指導され、学校教育の一環として大会も組織化されている。しかし、フェンシングのようになじみの薄い種目が、部活動に取り入れられているのは全国で十校に満たない。あとは、スポーツクラブとして、学校教育とは別に情熱ある指導者がボランティアで夜間や休日を利用して教えている。そのようなクラブが全国に約八十あり、全国少年フェンシング大会優勝を目指している。前述のユニバーシアード選手は、この大会で活躍した選手である。

 昨今、部活動の教育活動としての位置付けや教員の勤務の問題、過度の練習や指導の行き過ぎなど、部活動の在り方が取りざたされている。学校の活動でありながら、教育課程に組み込まれていないという矛盾から、さまざまなねじれを生み出しているのである。

 フェンシングの盛んなヨーロッパ諸国では、スポーツは主に町のスポーツクラブで指導を受ける。

 日本でも、部活動が教育課程に含まれないなら、社会体育として学校から切り離すことが理想である。しかし、指導者や経費の問題などがあり、矛盾を抱えながらも学校で行っているのが現状である。

 そう考えると、フェンシングクラブは、新しいスポーツ指導の形ではないだろうか。学校に入れない競技が、学校とは別の所で、子供たちの夢をはぐくむ活動を展開していることを知ってほしい。






(上毛新聞 2006年12月2日掲載)