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群馬大医学部教授 山口 晴保さん(前橋市下新田町)

【略歴】高崎市出身。群馬大医学部卒、同大大学院修了。医学博士。日本認知症学会理事、県リハビリテーション協議会委員長。認知症に関する著書もある。

元気になる仕組みを

◎高齢者の介護予防

 介護保険は、高齢者や脳卒中などの老化性疾患によって介護サービスが必要となった四十歳以上の方々が受給しています。これを支える財源は、一割が利用者の自己負担で、残りは半額ずつ、四十歳以上の国民が支払う保険料と、国・県・市町村の公費で賄われています。

 介護保険が導入されて、五年が経過しました。この間、高齢化に伴って給付額はどんどん増加しています。群馬県全体では、年にどのくらいの額が給付されていると思いますか。五万人以上の方が利用し、その総額は約千億円です。これが、十年後には年額千七百億円に増加すると見込まれています。在宅で訪問介護などのサービスを受けている方の平均利用年額は、約百二十万円、月額だと十万円くらいです。施設に入所されている方では、年額約四百万円、月額三十万円以上となります。

 高齢者介護では、「自己実現」(その人の思い・願いの実現)が求められます。このような質の高い介護サービスを充実させるには、さらなる増額も必要になるでしょう。そこで、介護予防が必要になっています。高齢者が介護を必要とする状態にならないようにすること、また、たとえ介護が必要になっても状態を悪くしないようにすることが介護予防です。

 高齢になると、筋が萎なえ、関節が硬くなり、バランスが悪く、心肺機能も衰えてきます。しかし、これは加齢のためだけではありません。高齢になっても、しっかりと運動(筋トレやストレッチ)を続けている方は、姿勢も良く、関節は柔らかく、歩行のバランスも良好です。人間の身体は「使う機能は強化し、使われない機能は退化する」という原則をもっています。使われない機能は不要と判断されて、その機能が失われていきます。これを廃用症候群(不使用症候群)といいます。

 年だからとあきらめて、身体を動かさなくなると、筋力や心肺機能だけでなく、気力も認知機能も落ちてきます。独り暮らしで社交性のない高齢者は、同居人がいて友達も多い高齢者と比べると、認知症になりやすいという調査もあります。老化を防ぐには、カロリー制限と運動が有効であると、動物実験などから分かっています。腹八分目の食事、そして、内臓脂肪を減らす運動が、老化防止の秘訣です。

 高齢者が住み慣れた地域の中で、グループをつくって筋トレを行うと効果的です。旧鬼石町では、群馬大学医学部保健学科と連携して住民主導型の筋トレ教室を広めてきました。週二回ほど集会所などに集まり、集団筋トレ体操で汗を流し、その後、皆で雑談やカラオケを楽しむなど、筋力アップだけでなく、地域の交流の場として地域づくりにも役立っています。また、認知症や閉じこもりの防止にもなります。

 このような高齢者の集まりに、子供も巻き込むとさらに効果が上がります。高齢者は、子供と一緒にお手玉やけん玉などで遊び、子供に文化を伝えることで、さらに元気になります。高齢者が自ら元気になり、そして、周囲の高齢者を元気にする。このような仕組みをつくらないと、介護費用の増大は止められません。介護予防を理解し、介護予防に取り組むことが急務です。






(上毛新聞 2006年12月3日掲載)