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高崎健康福祉大看護学部教授 池田 優子さん(高崎市元島名町)

【略歴】東京女子大中退、群馬大医療技術短期大学部卒。筑波大大学院で健康教育学専攻。太田高等看護学院教務主任、藤岡総合病院看護部長など歴任し、現職。

ピアエデュケーション

◎同世代の目線で伝える

 「失敗しないでできるだろうかと、不安で夜も眠れなかった」「でも始まった途端、不安が消えて、自分の中に言いたい言葉、伝えたいという思いがどんどんわき上がってくるのを感じた」「劇の中で『おれたちが一緒にいられることは当たり前のことじゃない。本当に幸せなことなんだ』というせりふを言ったとき、ニコニコして見ていてくれた高校生たちの顔ががらっと変わって真剣な顔になった瞬間、伝わったことが分かって苦労が報われた」

 これは、高校生の前で「ピアエデュケーション」を行った直後の学生たちの感想だ。

 ピア(peer)とは、「社会的、法的に地位の等しいもの、対等者、仲間、同僚」という意味がある。思春期を対象とした健康教育においては、ピアを同年代や同じような境遇など広い意味でとらえたピアカウンセリング・ピアエデュケーション(仲間教育)と表現している。つまり、ピアカウンセリング・ピアエデュケーションとは、親でも教師でもない、同世代を生きる、価値観を共感・共有する「仲間」というキーパーソンが行う健康教育活動なのだ。

 ピアカウンセリング・ピアエデュケーションは一九七二年のイギリスで若者たちの間に広まったグレープパイン運動に端を発し、アメリカ本土へ広まり、その後、カナダ、ラテンアメリカなど世界各地に広がりを見せた歴史を持っている。

 本県においては、昨年、藤岡保健福祉事務所主催でピアカウンセラー養成セミナーが開催されたのが始まりだ。六日間の研修の中でカウンセリング技術と性の理解、そして実践計画と実施による評価を受けてピアカウンセラーとして巣立った人は昨年が四十人。今年は県保健予防課主催で開催され、三十三人が巣立っていった。そして、本県初のピアエデュケーションが藤岡地域の高校を中心に始まった。

 学生たちは自分たちでタイムテーブルとシナリオを作成し、「この言葉で本当に高校生たちに伝わるのだろうか」と養護教諭の先生たちからアドバイスをもらいながら、本番にこぎつけた。プログラムの内容は性感染症に関する劇のほか、「色いろいろ」「ライフライン」などさまざま。

 しかし、一貫しているのは、中学生、高校生たちが大きな関心を寄せつつも、学校教育の場でなかなか教えきれない思春期の性の悩みや性感染症などを、同世代の目線から「正確な知識・情報を伝える」とともに、「自分の体と心を大切にしてほしい」「周りに流されないで、性の自己決定能力を育ててほしい」というメッセージを送ろうとしていることだ。

 ある学生はピア活動の意味をこう語る。「ピア活動は『今やらねばならない使命』だと思う。高校生と年齢が近い“今”だからこそ、自分が高校生の時に抱いていた悩みや知りたかったことを生かしてやれるし、やらなければならないと感じる」と。






(上毛新聞 2006年12月18日掲載)