視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
大鯉(おおごい)野武士軍団総帥(そうすい) 小林 孝次郎さん(桐生市境野町)

【略歴】群馬デザインアカデミー(現群馬芸術学園)卒。今年9月まで、桐生市内で「アイアド企画」を経営。鯉釣り愛好グループの総帥として鯉釣りの普及に努める。

コイ釣り

◎趣味で人生観が変わる

 「リリーン、リリリーン」と竿(さお)の先に付けた鈴が鳴り、手元に置いたセンサーの受信機が「ピピピピッ、ピピピピッ」と反応…。すぐさま、その方向に目をやると、竿がおじぎをしていて、ライン(釣り糸)が出ていく。

 「よーし、のったぞ!」。急いで竿のそばへ行き、落ち着いてラインの出ていく方向を確認しながら竿を手に取る。ググッと手応えを感じ、ジージーと出ていくラインをリール調整しながら、コイとのやり取り。これが何とも言えない。そう、時間でいったら七、八分から大物で二、三十分(障害物や足場の困難なときは、この限りではないが)。このわずかな時こそが、まさに至福なのである。

 これが私の趣味である。以前はいくつも趣味を持っていたが、友人にコイ釣りを勧められて、初めてのコイを釣り上げた時の状況は今でも忘れられない。それ以来、夢中になってしまった。今思えば、私にとって、それが人生のターニングポイントだったに違いない。世間には、まったく趣味を持たない人もいるが、私の経験から言うと、何か趣味を持つことをお勧めしたい。特に働きづめでこられた団塊の世代の方々にとっては、人生観が変わるかもしれない。

 私の場合、夢中になれたのが釣りだったので、自分自身が水を得た魚のようだった。多くの仲間にも恵まれて、釣りをしながら大いに語り合っている。ときには一人で静かに糸を垂れることもあり、釣りの楽しみ方もさまざま。

 そう、こんな一日もあった。三年前の釣行日誌によると、この日の天気は晴。夜明け前の最低気温が五・三度、日中の最高気温は一六・一度。午前中微風、午後は無風状態。八年ぶりに入るポイントで、数日前に確認した場所だ。わずかな風向きを感じ取り、水の澄み具合、流筋をよく見て四本の竿をセットした。車から必要な物を降ろし、餌はもちろんオリジナル。午前十時十五分、一投目の竿をセット。車の近くに仕掛けたので、当たり取りは鈴。数分、川を眺めて、車に戻って待機した。

 期待感を持ちながら、読み物に目を通して四十分くらい経過しただろうか。ふと、川面に目をやったその時、一番竿に当たり。見ると、竿先が川面に突き刺さんばかりにおじぎをしているではないか。すぐにそばに行くと、竿の動きが止まった。ラインがたるんでいたので外れたかなと思い、竿を手に取ってラインを巻いてみた。すると、糸が張ったとたんにすごく重い感じがして、いきなり引っ張られた。手応えはバッチリ。無理をせず、二十分間ぐらいのやり取りでたも網に。九一センチ、一二キロ。まあまあの良形、色もよし。

 釣果としてはかなり難しいコイだが、釣れた時の喜びはひとしおだ。仲間同士、情報交換したりして、お互い切磋琢磨(せっさたくま)しながら向上心を持って楽しんでいる。知人の中には絵をたしなむ人や写真を趣味にしている人、あるいはカラオケ、将棋に夢中な人、そう、ハーレーで仲間とツーリングを楽しんでいる人もいる。当然のことながら、働き盛りの人は趣味は二の次で、仕事が一番なのだろうが…。






(上毛新聞 2006年12月19日掲載)