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県経営者協会専務理事 松井 義治さん(前橋市関根町)

【略歴】中央大商学部卒。県経営者協会事務局長を経て、2002年4月から現職。群馬地方労働審議会委員、県労働委員会使用者委員、日本経団連地域活性化委員会委員。

原因と配慮

◎かばうだけでいいのか

 ある会社で、創立記念式典の会場案内図をA君が作製した。係の者たちが見直したところ、地図に間違いが発見され、早速A君も訂正に念を入れた。ところが、当日大勢のお客さまから「地図が間違っている」「道が分からない」との電話が入り、慌てて社員がお迎えに行き、直接、会場までご案内するなどして何とか式典を済ませることができた。
 
 そのときにお客さまが持っていた地図は訂正されてないものだったので、係の者たちはあぜんとしたが、式典の慌ただしさに取り紛れて、そのまま過ぎた。

 式典終了後の反省会で担当責任者のB課長は「私の不徳の致すところです」と平謝りに謝ったが、A君に対しては「本人も深く反省しているだろうから」と何のおとがめもなかった。

 ところが翌月、同じ会場を使って関東一円から来る取引先との会合が開かれたときにも、同じ案内図による騒ぎが起きてしまった。というのは、前の地図を確実に訂正したことを皆に確認してもらった上で、取引先に送ったはずであったが、今回も訂正されていない地図が配られていたのだった。

 二度も同じミスがあったことから、係の者たちもA君に強い非難の目を向けたが、A君は自分が間違ったのは皆がきちんと見てくれなかったからだと主張し、最初のミスについての反省もなかった。

 課長の指示で間違った原因の追究が始まった。その結果、最初のミスが指摘されたときに、A君は確かに地図の誤ったところを訂正した。係の皆も確認した。しかし、A君が印刷に回した原稿は訂正したものではなくて、もう一枚あった訂正前のものだったことが分かった。つまり原稿が二枚あり、二度目もまた訂正前の原稿が使われていたのだ。

 原稿を一つにしておけば、このミスは防げたはずだが、最初にA君がミスをしたときに、A君を単にかばうことよりも、ミスの“原因”が何であったのかをしっかりと追究する方が、はるかに重要なことだったのである。そうすれば原稿が二枚あったことも判明しただろうし、二度目のミスも防げたはずであり、この問題も起きなかったといえるのだ。

 それを課長が格好よく「私の不徳の致すところです」などと単にミスをかばうだけでは決して本人のためにならない。ミスした本人をかばってやることは一見思いやりがあり、優しい行ないであるかのように感じられるが、その結果、本人がまた同じ失敗を重ねることになってしまえばむしろ逆効果だ。

 いじめ問題でも先日、同じようなことがあった。「いじめた本人も心を悩まし、苦しんでいるのだから」と思いやりのある意見だ。しかし、そう言っている最中に相変わらずいじめを続けていたとしたら、その“配慮”は本物なのだろうかといささか疑問に思う。






(上毛新聞 2006年12月24日掲載)