視点 オピニオン21
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全国フィルム・コミッション連絡協議会専務理事 前澤 哲爾さん(東京都品川区)

【略歴】館林市出身。慶応大卒。山梨県立大国際政策学部助教授。武蔵大客員教授。NPO一新塾理事。国際NGOシャプラニール評議員。地球環境映像祭審査委員長。

海外から見た日本

◎優れた文化に誇りを

 数年前から年に八―十回くらい海外に行くようになった。多くは国際映画祭に参加するためだ。今までにカンヌ(フランス)、ベルリン(ドイツ)、ロッテルダム(オランダ)、ロカルノ(スイス)、サンセバスチャン(スペイン)、コペンハーゲン(デンマーク)、モントリオール(カナダ)、上海、香港(中国)、高雄(台湾)、バンコク(タイ)、ウラジオストク(ロシア)、プサン、チョンジュ、プチョン(韓国)を訪れた。

 各国の映画祭に行く大きな理由は、日本のフィルムコミッションのプロモーションだが、行けば多くの映画や映画祭関係者と出会い、情報交換をすることになる。もちろん、空いている時間は上映されている多種多様な映画を見る。私はそれらの経験によって、日本を少しばかり客観的に見られるようになった気がする。

 海外の人は日本を「素晴らしく魅力的な国」と見ている。アジアの果て、極東に孤立的に位置しながら、優れた技術力で世界をリードし、大きな経済力を持つに至った一方で、世界に誇れる伝統文化が息づく「ミステリアスな国」に映る。いまだに「ジパング」なのだ。

 とりわけ、ヨーロッパ人は日本への関心が非常に高い。映画祭では、日本映画の上映チケットはすぐ売り切れになる。昨年八月、ロカルノで見た、日本ではほとんど話題にもならなかった低予算作品が千五百人の観客から大きな拍手を受けていた。

 日本人は、日本が海外から相当興味を持たれていることをあまり知らない。日本はよく知られているように思われているが、そうではない。有名企業とか京都、広島など情報はごく限られている。日本が外国と比較して大国になったなどと威張るのでなく、優れた文化を持っていることに誇りを持つべきだろう。同時に、彼らが日本の文化を正当に受け入れ、多くのことを知ろうという姿勢に、こちらから敬意を払わなければならない。

 昨年二月にバンコク国際映画祭で上映された『The Sun』という映画にショックを受けた。昭和天皇の戦争終結前後を描いたドキュメンタリータッチの作品だ。イッセー尾形が天皇、佐野史郎が侍従、桃井かおりが皇后を演じる。戦争論議を扱ったものでなく、その時の天皇の日常が素直に優しく描かれる。この作品、監督はロシア人のアレクサンドル・ソクーロフで、ロシア・イタリア・フランス・スイス合作である。

 結果的に世界十二カ国で公開され、絶賛をされたというが、日本の映画関係者には映画化できなかった作品である。自分たちのテーマでないと自己規制したからだ。この傑作を日本の多くの人に見てもらいたいと願っていた。昨年八月、田原総一郎氏のコメント付きの新聞全面広告で、日本題名『太陽』として東京公開を知った。東京でのロングラン上映に続き、全国で公開されている。

 まさに、この作品こそヨーロッパ人の日本への興味から生まれた傑作である。群馬県内では、シネマテークたかさきで今月十二日まで上映中だ。






(上毛新聞 2007年1月6日掲載)