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県立文書館長 秋池 武さん(吉井町下長根)

【略歴】国学院大文学部史学科考古学専攻卒。2001年4月から現職。県市町村公文書等保存活用連絡協議会長。博士(史学)。著書「中世石造物石材流通の研究」。

生活に役立つ情報提供

◎文書館の展示

 私が勤務する「文書館(もんじょかん)」は、他県では「公文書館」「文書館(ぶんしょかん)」「資料館」「情報館」などとも呼ばれ、県によっては博物館や図書館がその機能を果たす場所もある。このような違いは、公文書館法制定(昭和六十二年)が比較的近年であることや、館の設立経緯、組織上の違いから生じている。

 機能的には、類似する施設の図書館が主に刊行された図書などをそろえて閲覧の機会を提供し、博物館が収蔵資料の展示を通して観覧の機会を提供しているのに対して、文書館は行政で使用した公文書を歴史史料として継続収集し、閲覧者に「現物」を通して情報提供する点が大きな違いである。

 このような違いは文書館の展示活動にもかかわっている。

 文書館では、今月二十六日から三十日に県庁一階ホールで「ぐんま・学びと子育て三百年―寺子屋から近代教育への歩み」の特別展を開催する。

 この展示は、県が「子供を育てるなら群馬県」をスローガンに掲げて推進する子育て支援や教育の中から、特に「学びと子育て」に焦点をあて、江戸時代の「寺子屋教育」や明治時代の「教育県群馬」の姿などを収蔵史料を通して紹介し、今日の子育てや教育の参考としていただくための企画である。

 本展示の中心の一つに、本館収蔵資料から職員が新たに確認した、明治十四年刊行の「文部省第九年報」に掲載された「明治十四年府縣人口百中生徒平均比較圖(ず)」を予定している。

 この図は、北海道を除いた四十一府県の「明治十四年学事統計」中にある「人口百中生徒比例数」をもとに作図されたもので、見開き二ページの日本地図には各府県の実態が図示されている。

 この「比較圖」を詳細に見ると、特に宮城、栃木、長野、山梨、石川、福井、愛知、京都、三重、岡山には細い斜線が密に、さらに大阪、岐阜には格子状の太く濃い線が密に引かれているが、群馬県はただ一県、これらよりひときわ目立った黒塗りで、国内一位の就学率の高さを示している。

 この「比較圖」の背景にはさまざまな要因があると考えられるが、当時の群馬県行政が他県に先駆けて教育に力を注ぎ込んでいたこと、県民の多くが学業の大切さを認識していたことなどを明確に伝えている史料として重要である。

 この史料は、公文書特有の白黒の書類であることから、見栄えの良さや芸術性を持たないが、百数十年前の行政資料そのものであることや素朴さが、逆に史料の信頼性と説得力を強めている。

 文書館の展示では、このような地域の姿や歴史・生活の参考となる史料の紹介や利用方法などを提案し、地域理解や生活に役立つ情報が提供できるように心がけている。






(上毛新聞 2007年1月13日掲載)