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関東学園大経済学部教授 高瀬 博さん(太田市東別所町)

【略歴】東京学芸大大学院修士課程修了。日本体育学会群馬栃木支部幹事、日本肥満学会会員。著書に「ライフスタイル自己改革講座」など。千葉県柏市出身。

和食文化の再認識を

◎肥満問題に学ぶ

 昨年十一月にオーストラリアのメルボルンで開かれた国際糖尿病連盟の会議で、「世界各地の先住民社会は、肥満による糖尿病が抑制されなければ、今世紀のうちに消滅の危機に直面する」という衝撃的な報告が行われた。アジア、オーストラリア、太平洋地域、南北アメリカ大陸の先住民は、食事や生活環境の急激な欧米化により糖尿病を発症する危険性が大きく、心臓病、脳卒中、腎臓などの疾患を併発しやすいということである。

 この報告記事に関心を持ったのは、十年ほど前、「ハワイ先住民の肥満問題」について現地で調査研究を行った経験があるからである。かつて大相撲でのハワイ出身力士の活躍は多くのファンを魅了し、観光案内用の写真や映像などからも「体が大きく健康的なハワイの人々」という印象があったが、実際にはハワイ先住民の肥満問題は深刻であり、当時、約66%が肥満に悩み、糖尿病疾患の割合は全米平均の六・八八倍であった。

 幸いにも、現在は改善の方向にあり、その中心になっているのが、当時ワイアナエ総合保健センターに勤務していた日系三世のテリー・シンタニ医師であった。弁護士資格も併せ持つ同医師は、「全米でも平均寿命がトップクラスのハワイ州に住みながら、ハワイ人だけがどうして短命なのか?」という疑問を持ち、ハワイ先住民のために立ち上がった。

 もともと精悍(せいかん)な漁労民族であったハワイ先住民の肥満の主な原因は、航海移民民族特有の脂肪をためやすい遺伝的資質と、食生活の急激な欧米化による不適応、「車社会」であることからの深刻な運動不足、ハワイ人をめぐるさまざまな歴史的・社会的背景などである。同医師は「ハワイ社会において日系人が健康であるのは伝統的和食の効果」と考え、これを手本に、脂肪を抑え野菜や炭水化物を多く摂取する「ハワイアン・ダイエット」を提唱した。同時にそれは、ハワイの伝統的食文化への回帰であった。

 同医師はまた、日本に対しても、「昔ながらの食生活の大切さは日本も同じ。低脂肪・高繊維質の和食から、高脂肪で高エネルギーのファストフードに代表される西洋型の食生活に移りつつある日本人、特に若者が心配」と警告している。日本では、「生活習慣病」「メタボリックシンドローム」対策の啓けい蒙もう活動が活発であり、ダイエットのためのサプリメントの需要が高まっているが、まずは日本が誇る伝統的和食文化を再認識し、食生活の基本とすることが大事であろう。

 最近、健康的なライフスタイルを提唱する「ロハス」や「スローフード」という言葉を時々耳にし、和食中心の健康志向の外食チェーン店も見かけるようになった。一時的なブームで終わらないことを願っている。






(上毛新聞 2007年1月14日掲載)