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草津温泉フットボールクラブ取締役 鳥谷部 史さん(東京都大田区)

【略歴】慶応大経済学部卒。野村総合研究所でコンサルティング事業本部事業企画室長などを歴任。現在は同本部経営コンサルティング部長も務める。東京都生まれ。

ザスパ草津を支える

◎多様なバランスの上に

 前回の本欄(昨年十一月二十六日付)では、ザスパ草津の経営理念に関する大西忠生前社長の思いを記した。今回は、ザスパ草津を取り巻くステークホルダー(企業活動に直接・間接的に関係する方)についての大西さんの思いを考えてみたい。前回、私は「サポーターさま、スポンサーさま、自治体殿」という表記をした。本欄を担当している新聞社の方から、気持ちは分かるが、普通はこのような敬称は付けない、とご示唆をいただいた。しかし、私はこだわった。ザスパ草津は、他のJリーグチーム、一般企業にはない幅広いステークホルダーの様相を持っており、そのすべての方を尊重することを大西さんもこだわられていたからである。

 例えば、サポーターさんは、急速に昇格した背景もあって選手と一緒に神み輿こしを担いだ時代をご存じの方、プロスポーツとしてご観戦されている方、あるいはサポーター組織に入り大音声でチームを応援してくださる方、遠隔地からネットを介して試合経過に手に汗を握られている方、とさまざまである。しかし、すべての方が心からザスパ草津を支え、かつサポートの在り方のバランスを相互に理解してくださっていると信じている。だからこそ、すべてのサポーターさんを全く平等と考えている。いわゆる一般企業の上得意管理とは異なるところである。

 また、Jリーグクラブは一つの企業グループに支えられているものが多く、財務的にも、人材的にも安定した経営が実現できている。しかし、ザスパ草津には、このような責任企業がない。その代わり、数多くのスポンサーさま、株主さまに支えられている。ただし、大手のスポンサーさまに対してもむやみに甘えず、また一社から複数の役職員を派遣していただくことも許されていない。ザスパ草津は一つの会社、一人の個人に支えられてはいけない。利用しても、されてもいけない。バランスをもって皆で支えていただき、皆で夢を享受することを当初から目指してきた。

 自治体殿のバランスについても述べておきたい。現在、選手寮、練習場、メーンスタジアム、大半の本社機構は前橋市に所在する。観戦者の方、スポンサーさま、株主さまも県の中央部の方が多い。「ザスパ草津」ではなく、「ザスパ前橋」「ザスパ群馬」と言われることもある。しかし、大西さん、植木繁晴監督をはじめとするわれわれ創設者はもちろん、ステークホルダーのすべてが発祥の地である草津町を尊重している。草津町だけでクラブの経営は支えられないが、それで草津の意義がみじんも揺らぐものではない。経営的な表現を使えば、このクラブ最大の非財務的価値の源泉なのである。まさに地域間の相互バランスが取れている。

 このように、ザスパ草津は多様なステークホルダーのバランスの上に成立させていただいている。このバランスを大切にしたいというのも大西さんの思いであった。中国の古典である『六韜(りくとう)』を援用すると、「ザスパは一人(一社)のザスパにあらず、ザスパはザスパのザスパなり」といったところであろうか。






(上毛新聞 2007年1月17日掲載)