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日本産婦人科医会県支部長 佐藤 仁さん(仁高崎市竜見町)

【略歴】岩手医科大卒。医学博士。1971年から産婦人科舘出張佐藤病院長。日本産婦人科医会常務理事。日本産科婦人科学会代議員。県警察医会理事。

周産期医療の現状

◎助産師の養成が急務

 日本の周産期医療が現在の状況のまま進行すれば、日本の全出産百万の半数、五十万の妊婦さんの出産場所がなくなってしまう。原因は産婦人科医療、特に分ぶん娩べんに携わる医師の減少と、これを支えるコ・メディカル(医療従事者)の不足による出産取り扱い施設の減少である。

 第一に、大学病院を含む官公立病院の産科医師不足で分娩対応病院が減少している。その要因は、大学病院の研修医教育の人員確保と、産婦人科教室の運営維持のため、関連派遣病院からの医局員引き揚げ。これに伴って高次・中核病院(大学医師派遣病院)の医師が減少。それが原因で医師の過重労働、中核病院からの離散が起こり、分娩取り扱いを中止する地域中核病院が続出することになる。ハードな労働に加え、医療訴訟を目の当たりにし、新たに産科医を目指す研修医や医学生も減少する。

 第二に、日本における全出生数の47%、約五十四万人の分娩を取り扱う産婦人科有床診療所も医師の加齢、過労、過失責任補償問題等の理由で分娩取り扱いを中止する施設が続出している。加えて、五十数年間も継続して赤ちゃんの死亡率を世界一低くした医師と看護師による診療所施設分娩を危機に追い込む厚生労働省通知。いわゆる「お産の管理は助産師以外はだめ!」という通知である。これでまた一層、分娩施設が少なくならざるを得ない。

 本県でも、周産期医療に従事する医師および出産施設が減少している。助産師数は三百数十人と不足しているうえ、官公立病院に偏在。全出生数一万七千七百人(平成十六年度)の53%が有床診療所で、他の民間病院が20%である。群大病院を含め官公立病院での出生はわずか26%の五千例弱にすぎない。これらの官公立病院に分娩を集約させることは、ハードである病床数の面からも、ソフトである医師およびコ・メディカルの面からも、困難である。

 今後の本県の周産期医療を維持していくためには、現在、分娩を取り扱っている各地区の有床診療所の存続が必須である。官公立病院である高次・中核病院と民間病院・診療所のより強力な協力連携と診療内容のすみ分けを図らなければならない。高次・中核病院の過重労働を緩和するために、妊婦健診などの外来診療は民間が協力すればよい。入院施設がなくとも健診は可能であろう。リスクの少ない正常分娩は有床診療所で引き受け、リスクの高い妊産婦は中核病院に。この振り分けに、今後は難産および異常分娩を妊娠初期・中期に予測するための妊婦リスクスコアの利用も必要であろう。

 緊急時の中核病院の後方支援も必要で重要である。周産期医療に若手医師を呼び込むには医師のQOL(生活の質)に配慮した医療現場をつくらなければならない。より安全性を向上させ、快適性を増すためにはコ・メディカルの協力が必要で、助産師の養成が急務である。そのためには、国および地方行政の協力援助と県民の正確な現状認識と理解が必要となる。今後の日本の、そして本県の周産期医療の健全な発展を願ってやまない。






(上毛新聞 2007年1月19日掲載)