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県経営者協会専務理事 松井 義治さん(前橋市関根町)

【略歴】中央大商学部卒。県経営者協会事務局長を経て、2002年4月から現職。群馬地方労働審議会委員、県労働委員会使用者委員、日本経団連地域活性化委員会委員。

求む「自立した大人」

◎新入社員の育成

 職場で新入社員に行う最初の指導は、業務を遂行し、職場生活をしていくために必要な知識や技能、ルールなどの基本的なものだ。これを“枠決め”という。その企業の枠にはめて基本的なことをたたき込むのだ。多くは直接、実務をやらせながら上司や先輩が指導していく。これを「OJT(OntheJobTraining)」という。このOJTを通して、一日も早く実戦力となるように仕込まれる。しかし、上司は忙しいから、早々と突き放し、どんどん仕事を与えていく。放置するのでなくて、上司の監督のもとで仕事を与え、それを完全遂行する責任を負わすのだ。社員はその責任を果たし、成果を挙げるから給料をもらえるのだ。

 多くの場合、その厳しい業務遂行の場面でいろんなことを学び、成長していく。上司の立場からいえば、仕事を与えることで新人の育成をしていることになる。だから、OJTは、単なる「コーチング」ではなく、ベッタリとくっついて指導することでもない。仕事を完全遂行し、成果を挙げることが、本人の課題となるように与えることなのだ。本人は、成果を挙げるために真剣になり、のめり込むことで成長していく。

 もし、いつまでも枠にはめたままにしておいたらどうなるか。自立できる者は別として、枠にはめたままにしているうちに、融通のきかない堅物、あるいは偏った人間が育つことが多い。しかし、伸びるに応じて枠をとってやれば、弾力性が出てくる。これを“枠の取り外し”という。そうすると、物足りなさはあるにしても、一応の基本的なものが身についていれば、それを基盤に変化し、成長していくものだ。

 できるようになり、分かるようになってきたところから順に“枠の取り外し”をすることで、本人は自分で考え、行動しなければならなくなり、そのために必要なことへの関心が一層高まるのだ。この段階では、本人に何かを会得あるいは悟らせるように教え導くことが必要であって、単なる強制は効果がない。むしろ反発を招くだけである。

 自分で会得するようになると、進歩を感じ取ることができる。この喜びは自分から学び取ろうとする姿勢を強める。つまり、枠から自由となって“自立的”活動に変わる。この段階が「自ら啓ひらく」レベルだ。

 ところが家庭ではどうだ。親はもう子供が成長しているのに自分の枠から出すことなく、転ばぬ先に手を出し、口を出すから、子供は失敗から学ぶことがない。障害があれば取り払ってくれるから、努力を知らずに生きてくる。ほしがればすぐ与えるから、我慢を知らない。親があいさつをしないから子供もできない。そんなことだから社会へ出ると簡単に転んでしまう。転んでも自力で立ち上がれない。壁にぶちあたると逃避してしまう。

 軟弱な子供が増えている。これでは家庭から企業の求める人材は出てこない。企業は自立した大人、自主性のある人材を求めている。






(上毛新聞 2007年1月20日掲載)