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キリンビール常務 松沢 幸一さん(さいたま市浦和区)

【略歴】千代田町出身。館林高、北大農学部修士課程修了。1973年にキリンビール入社。キリンヨーロッパ社長、北陸工場長、生産統轄部長を経て、昨年3月から現職。農学博士。

国際化と相互理解

◎急がれる人材の育成

 最近、中国にあるわが社出資の二つのビール工場を訪ねた。一つは、マカオ隣接の珠海市に所在する。この会社は販売量が順調に伸び、既存工場では生産能力が限界に達したため、昨春、年産二十万キロリットルの大型新工場建設に踏み切った。今年六月の製造開始を目指して現在、工事が急ピッチで進んでいる。このプロジェクトには機械、電気、生産プロセス系の技術者と工場の熟練技能者十人余を日本から派遣している。彼らは現地社員とチームをつくり、七百―八百人の建設作業員と一緒になって仕事を進めている。この日中混成のチームワークがとても良い。

 この会社の経営に参画して十年。その過程で日本流の社員教育にも相当力を注いできた。三年前には生ビール製造を立ち上げるために、日本から数名の熟練技能者を約一年間派遣した。彼らは現地社員と一緒に現場で汗水を流して働いた。これらの積み重ねが相互理解を深め、会社の風土として根付き、目下の建設プロジェクトの推進力になっていることは間違いない。この会社では現地社員の定着率も極めて高く、日本のモノづくりの姿勢や知恵が中国のやり方とうまく折り合い、日々の製造に生かされている。新工場でできるビールの味も、今から楽しみである。

 このプロジェクトを通じて日中双方の人材が育ち、今後の中国事業の拡大に寄与してくれるものと確信している。また社会的にも、日中間の相互理解に好影響を及ぼすだろう。

 もう一つのビール工場は大連市郊外にある。二年前の資本提携と同時に、経理・技術の要員を日本から送り込んだ。しかし、こちらは会社の歴史が浅く、人材も多くはない。経営全般のシステム整備とともに、人材育成をしっかり進めていかねばならない状況である。

 ただ、総経理(社長)の王さんは、「部下に任せてしまうと裏切られる」「人材を育てても、すぐに流出してしまう」という懸念を持っている。中国では家族・親族等限られた人しか信用しない、ということをよく聞く。しかし、この壁を乗り越えなければ、さらなる発展は望めない。どのようにやるか、経営陣にとって目下の重要課題である。これといった妙案は思いつかないが、会社や社員の将来像を明示し、社員と常に対話し、人材育成の努力を続けることが基本だろう。時間はかかるが、一歩一歩やっていくしか道はない。

 一般に日本企業は、社員教育に熱心だといわれる。しかし、最近は欧米等の企業も、これを重要視している。経営目標・計画に、社員の学習成長の視点からの具体策を盛り込んで実行することが、企業経営の必須要件になっている。経済活動のグローバル化とともに、国際人材の育成と蓄積もまた急務なのである。

 さらに、これは企業に限ったことではない。内なる国際化が進行している日本社会全般においても同様である。他国の人と意思疎通ができ、共に働き、共に生きられる国際人材の育成は、日本社会共通の重要課題である。






(上毛新聞 2007年1月22日掲載)