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フード・アドバイザー 村木 日出光さん(桐生市宮本町)

【略歴】 札幌市生まれ。漫画家、テレビディレクター、放送作家を経験。食への関心を深め、桐生市に会社を設立して、お米のマヨネーズなどを販売している。

塩こそ食の原点

◎人類の未来を救うかも

 「スローフード」。最近、この言葉を耳にしたことはありませんか? 「ファストフード」の逆、日本語に訳すならゆっくり食べる食事―となるのですが、食の原点の見直し、安全な食の在り方への警告から今、世界的に広がり、日本にもその波がやって来ています。

 食の安全とは何なのでしょう。安全をつかさどる要因は? その一つは「塩」です。この塩こそ、食の原点ではないでしょうか。しかし、「塩の取り過ぎにはご注意」といわれる“悪玉”でも、大変な“善玉”であることが分かっています。人間が生きていく過程で塩がいかに大切か、生命の源ともいえる“善玉”の役割が今、見直されつつあります。

 人は一人年間約四キログラムの塩を取っているといわれています。緊急に病院に担ぎ込まれるときなど、必ず点滴が打たれますが、その原液も塩水(生理食塩水)なのです。この塩水が人の生命保持に大きな役割を果たしています。生命がお母さんの胎内に宿る時も、赤ちゃんは羊水といわれる塩水の中で栄養分を与えられ、成長します。人の体の三分の二は水分で、その63%は細胞内に含まれ、27%は細胞外液です。この細胞外液や血液の塩分濃度は0・85%。魚の体液と同じ濃度で、海水の約三分の一の濃度を保っているといわれています。

 命を守る点滴、生理食塩水は血液・体液と同じ約0・9%に保たれ、塩化カリウム、ナトリウム、マグネシウム、ブドウ糖など加えたもので、まさに「塩」なのです。生命の維持をつかさどる塩がなぜ“悪玉”にされたのでしょう。

 一九七二年に塩業近代化臨時措置法によって、すべての塩田が廃止され、機械によって人工的に精製した塩に画一化されました。このときから塩の害が指摘され始め、ほとんどのミネラルをそぎ取った「塩」が浸透していきました。五三年、アメリカのメーネリー博士が行ったマウス実験の結果は恐るべきもので、通常の二十倍の食塩を加えた食事とネズミの体液と同じ1%の食塩水を六カ月も与えたところ、十匹中四匹が高血圧になったそうです。

 この過酷な報告から塩が“悪玉”に仕立てられ、「塩分の取り過ぎは高血圧症の原因」と言われることになったようです。

 日本で売られている自然塩製品は、ほとんどが輸入塩です。再度、海水に漬け込み、ニガリ調整された再生塩で、「自然塩」として販売されています。減塩食品は本当に体によいのでしょうか? 塩分が不足すると食品の防腐能力が薄れ、カビが発生しやすくなり、その防止に糖分等の添加物を加えることになります。そうしたマイナス面があるにもかかわらず、生産者・消費者に減塩が体によいかのような錯覚があるようです。

 梅干しが何年たっても安全に食べることができるのも、塩の働きのたまもの。塩が人類の未来を救うかもしれないのです。






(上毛新聞 2007年1月31日掲載)