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群馬大医学部教授 山口 晴保さん(前橋市下新田町)

【略歴】 高崎市出身。群馬大医学部卒、同大大学院修了。医学博士。日本認知症学会理事、県リハビリテーション協議会委員長。認知症に関する著書もある。

老化防止

◎活性酸素から身を守る

 高齢になると、体のあちこちに老化現象が出現する。歯が枯れ木のように折れたり、耳穴から太い毛が生えてきたり―と。そのたびに年を感じ、ショックを受ける。最近、アンチエイジング(抗加齢)という言葉を耳にするようになった。団塊の世代向けに老化防止をうたう商品は、よく売れるようだ。

 老化は本当に防げるのか。老化は生まれたときから始まり、だんだんと進む。だから、老化を止めることはできない(死によって止まる)。しかし、老化のメカニズムが解明されつつあり、老化を遅らせる術(すべ)は分かってきた。つまり、老化防止とは、老化を止めることではなく、老化のスピードを遅らせることだ。

 老化の研究は、ライフサイクルが短い動物を使って行われる。例えば、ショウジョウバエを空気中の酸素濃度50%の部屋(通常は20%)で飼うと、寿命が七十五日から三十五日へと半減する。このことから、高濃度の酸素が活性酸素の産生を通じて老化を促進することが分かった。また、寿命が二十日の線虫に、ある遺伝子変異が生じると寿命が六倍の百二十日に延びたことから、長寿遺伝子が判明した。見つかった老化のスピードを抑える遺伝子変異は、細胞の糖代謝を抑制して酸素消費を減らす方向に働いていた。

 このような研究から、老化の最大の要因は、体内で酸素を使ってエネルギーをつくるときの副産物である活性酸素だと判明している。活性酸素はとても反応性の強い酸素種で、出合った分子を酸化する性質を持っている。このため、近くの遺伝子を酸化して遺伝情報を破壊する。このような遺伝子や細胞膜の酸化による損傷が、細胞レベルでの老化に密接に結びついている。

 では、実生活の中で、どうしたら老化を防止できるのか。そこで、サルの実験を紹介したい。サルを二群に分け、一方は好きなだけ食べる飽食群、もう一方は食事量を七割に制限した群として長期間観察すると、制限群は飽食群に比べて、身体は小さいが、動きは素早く、毛並みがよく、若々しさを保ち、死亡率も低いという結果が出ている。老化防止の第一は、「腹八分目」という昔からの教えだ。

 高濃度の酸度は毒と書いたが、運動で酸素をたくさん取り込むことはどうだろうか。運動で酸素の消費が増え、活性酸素も増加する。しかし、この増加が引き金となって、活性酸素を取り除く酵素(SOD)が増えるので、結果的には害が減ると考えられている。つまり、運動によって活性酸素を取り除く能力が増すのである。また細胞内の老廃蛋たん白ぱくを除去する能力も、運動で増加する。毎日激しい運動をすることは老化を促進しかねないが、適度な運動(高齢者なら週に二―三回、軽く汗を流すような運動)により老化を遅らせることが可能だ。

 活性酸素の毒を取り除く消防士役はSOD以外にもビタミンEやA、C、ワインや野菜のポリフェノールなどにある。中年期以降は、(1)過食禁止と肥満防止(2)適度な楽しい運動(3)ビタミンやポリフェノールを含む野菜をたくさん取る(4)少量の赤ワインを楽しんでストレスを発散する―ことが老化防止の秘訣(ひけつ)である。






(上毛新聞 2007年2月6日掲載)