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共愛学園前橋国際大国際社会学部長 大森 昭生さん(前橋市駒形町)

【略歴】 宮城県出身。東北学院大大学院博士課程在籍中の1996年に共愛学園入職。2003年から現職。県男女共同参画推進委員、前橋市社会教育委員などを務める。

仕事と育児

◎性別で役割定めないで

 「おとうさーん!」。寝室から三歳の息子の声が聞こえます。最近は子どもたちを寝かせながら一緒に眠ってしまうので、早朝に布団から抜け出し、仕事をしています。ところが、隣に私がいないと、お呼びがかかるか、書斎までお迎えが来るというわけです。「お母さんとねんねしてて」のお願いは聞き入れてもらえず、寝室に逆戻りということになります。

 ご飯も、お風呂も、紙パンツを替えるのも、何でもお父さんがいいと言ってもらえるのはとても幸せですし、今のうちだけとも思うのですが…。子どもたちは本当にかわいい。だけど、仕事は進まず、ストレスもないわけではありません。特に、自分の時間を自分でコントロールできない経験は子育てが初めてでした。

 「…小女(生後七カ月の娘)は宵のうち一寝入りしたが、それからはどのようにしてもだだをおこして聞かないので、…抱いて寝るとぐうとも言わずに眠った。それゆえ毎晩私に抱いて寝てくれと言うには困っている」。これは、中江和恵さんの『江戸の子育て』に紹介されている下級武士の日記です。江戸時代の父親も同じように悩んでいたのかと、口元が緩んでしまいます。

 中江さんによると「(日記筆者は)子どもを抱きながら話をしたり、寝かせたり、風呂に入れたり、…と子どもの世話に明け暮れているようだが、当時は男親が子どもの世話をするのが普通だったので、格別、驚くにあたらない」のだそうです。

 同書には、幕末から明治初期に来日した西洋の人たちが、子どもを大切にする日本の風土や父母による育児共有の様子を称賛して記述していたことも紹介されています。前回の本欄(十二月十四日付)で、他の国々に比べ日本は父親の育児共有環境が整っておらず、父親たちも悩んでいる現状について述べましたが、いつのころから他国と状況は逆転してしまったのでしょう。

 今、子育ての孤立が社会的な問題となっています。産業構造の変化は地域社会での家庭の孤立と核家族化をもたらし、その中で、性別によって仕事と育児に役割が固定されることで、孤立した育児環境が生成されていきます。そのため、育児ストレスは増大しており、親が時には一人になれ、しんどさを分かち合える人がいて、親自身の人生も大切に思えるようになる支援が望まれています。もっと父親が育児を共有することができれば、状況は随分違ってくるでしょう。例えば、育休を短くても取得でき、一日中、子どもと過ごす経験があれば、子どものかわいさと子育ての苦労を感得し、実感を持ってそれを分かち合えるようになると思うのです。

 また、少子化という社会的な課題に関して言えば、男性の家事育児時間が長い国ほど、あるいは女性の就業率が高い国ほど、出生率が高い傾向があるそうです。つまり、財政的措置を拡充するのに加えて、性別にかかわらず仕事も育児も共有できる環境づくりが少子化対策の要点の一つになっているのです。そのような環境づくりのための取り組みについて、次回は考えてみたいと思います。

 あ、今度は一歳の娘が泣いています。「今行くからねー」






(上毛新聞 2007年2月14日掲載)