視点 オピニオン21
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地球屋統括マネジャー 小林 靄さん(高崎市東町)

【略歴】 前橋市生まれ。ちょっと変な布紙木土「地球屋」のデザイナー兼統括マネジャー。本名洋子。古布服作家、歌人としても活躍。著書に「花の闇」など。

社会への順応

◎日々前向きに考えよう

 「真実を少し告げざる平穏に続き来しかもわが来し方の」

 この短歌は三十年近く前に上毛新聞の歌壇に投稿したもので、「うそをついているわけではなく、本当のことを少ししか言わない平穏な」暮らしを歌ったものである。

 面と向かって「あなたが嫌い!」「気に入らない!」などとは普通、口にしない。これを人は優しさと表現するのだろうか。心の中で消化することであり、言葉にしてはならないことであろう。

 社会生活を送っていく上で、人間関係は大きなウエートを占める。そして、これに悩んでいる人たちの話をよく耳にする。社会問題化している子供たちのいじめの問題は、大人の社会生活への洗礼のようにも思え、痛々しい感じがする。

 われわれが悩む以上に、小さな体で真剣に耐えている姿に胸が痛む。現に転勤族だった私の娘も随分、いじめに遭っていたという。「遭っていた」という表現は、誠に親として面目ない次第だが、子供の愚痴を真剣に受け止めず、理解していなかったためであろう。子供たちのいじめが表ざたになり、メディアなどで取り上げられたとき、娘との会話でこの話題に及んで初めて、いじめの事実を知らされた。何もしてやれなかったことを悔やみ、取り返しのつかないことに、その夜は眠れなかった。

 だが、よく考えてみると、当時、いじめに気付いたとして、何か手を打つことができただろうか。大人が入っていって、解決できる問題なのだろうか。大人は、大人として自分の責任でさまざまなことに対処しているわけだが、子供たちにそれを求めるのは無理なことである。そのさまざまなことに対処できる強きょう靭じんな神経や判断力を付けることが、日々のわれわれの子育てにかかっているのだと、その重要さに気付かされる。

 「子供は自然に育つ…」とは、自然が自然な状態であって初めていえることであり、ゆがんでいる自然の中では、それなりの工夫や対応が必要になってくるのだろう。生きる知恵を付ける、自然界の、例えば植物などですら、生き残る上にさまざまな変化を続けている。社会生活も変化を強いられているわけだが、まず、子供たちに現在に適した変化を、順応へと導かなくてはならないのだろうか。それには、われわれ自身がもっと柔軟な変化を求められているような気がする。

 私は小学生のころ、優しくしてくれた友達のことは、いまだ忘れていない。いじめられたこともあったのだろうけれど、今は懐かしさだけである。娘がいまだ、いじめられたことをつらそうに話すことがあるが、いつまでも昔受けた仕打ちなどにこだわり続けることは、本当に不幸なことだと思っている。それにも増すような楽しいこと、また、日常に満足していれば、あまり周りのことにこだわることがなくなるのではないか、と思っている。

 それには日常を充実させる、前向きなことを考え、実行に移すことが先決であると考える。






(上毛新聞 2007年2月17日掲載)