視点 オピニオン21
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群馬ピアカウンセリング・ピアエデュケーション研究会代表
 池田 優子さん
(高崎市元島名町)

【略歴】 群馬大医療技術短期大学部卒。筑波大大学院で健康教育学専攻。藤岡総合病院看護部長などを歴任し、現在、高崎健康福祉大看護学部教授。

思春期教育

◎ピア活動が一層重要に

 二〇〇〇年の「健やか親子21検討会」報告書は、十代の人工妊娠中絶、性感染症の増加や性交経験の若年化が進行する中で、新たな思春期の保健事業の強化と健康教育の推進を提言し、その一つの手法としてピア(仲間)カウンセリングに注目している。つまり、思春期の性の健康問題の解決のためには、若者自身が主体的に自己決定していく能力が必要であること、またそのためには健康教育・性教育の発想の転換が必要とされた。

 従来行われてきた伝統的な健康教育は、一方通行の知識偏重型によるアプローチが主流であった。しかし、知識を提供するだけでは、その人の日常生活習慣を変えることは非常に困難であることが分かってきている。喫煙、無防備な性行動、薬物などの不健康行動について、やめることがいいのは分かっていても、やめられない現実はたくさんある。そして「分かっているけど、やめられない」という思いの背後に、寂しさや自分への自信のなさがあること。特に若者の場合、自己肯定感が低いというデータがある。従って、若者たちが自分自身に自信を持ち、自己肯定感を高めるかかわりが今、思春期教育に問われている。

 ピアカウンセリングは、「人は機会があれば自分自身の問題を解決する能力を持っている」という基本前提を持つ。そして傾聴・共感の基本姿勢やアクティブリスニングによって仲間が寄り添うことで、主体的に自分の生き方を決める支援をしようとしている。その場合、今の自分をそのまま受け入れてもらえること、つまり「何を言っても批判や評価されない場」は極めて重要である。そのため、ピアカウンセラー養成の場では守秘義務を守ること、自分のペースで打ち解けること、批判や決め付けをしないことなどのルールを決めて、気持ちよく自分を出せる場を保障している。このような環境の中で、初めて人は安心して心を開き、自分を見つめ直すことができるのである。

 ピアカウンセリング・ピアエデュケーションは「仲間」をキーパーソンとした健康教育手法である。国際家族計画連盟の研修スペシャリスト、ドーチェ・ブラーケン氏はピアエデュケーションの有効性について、以下のように述べている。(1)安価である(2)ピアの社会的ネットワークは若者の行動変容に重要な役割を果たす(3)若者に重要な役割を演じる機会を与えることは、若者のスキル、知識の向上に役立つ(4)与える人間と与えられる人間が近い立場にいることで、知識に説得力が増す―と。

 また、思春期教育を推進しているある医師は、ピアカウンセラーの有効性についてこう語る。「正確な知識を与えることは、僕ら専門家の方がうまいだろう。しかし、どんなに頑張っても君たちに負けるものがある。それは、仲間の身近さと気軽さ、そして安心感だ。だから、君たちが感じる思いを伝えることに意味がある」と。今後、ピア活動の推進が思春期教育に与える効果は、ますます重要となるだろう。






(上毛新聞 2007年2月19日掲載)