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かのはら・ふれあいネットワーク事務局長 新井恒好(富岡市神農原)

【略歴】 高崎工業高建築科卒。一級建築士事務所長。1985年に県少年警察協助員を委嘱され、現在は県少年補導員富岡地区少年補導員連絡会会長を務めている。

まず自分たちで実践を

◎地域社会

 二〇〇三年の夏休み前、中学校の神農原地区懇談会でのこと。出席者の中から「西中の通学路になっている神農原側からの坂道のことですけれど、結構交通量もあるし狭くてカーブで車も自由にすれ違えない所を自転車で通っている子供もいます。その上道路脇の竹やぶの竹が覆いかぶさっていて昼間でも薄暗くて日当たりが悪いから雪が降るとすぐに解けないのでとっても危険です。何とかなりませんかねえ、区長さん」という要望があった。

 ふれあいネットワークの会長も務める茂木才一区長は「私も以前から危ないと思っていました。道路の拡張整備については市にお願いしています。竹やぶのことは近日中にネットワークの理事会がありますので理事の皆さんと相談してみましょう」と答えた。この件は数日後の理事会で話し合われ、「いずこまでできるかわからないけれどできるだけやってみよう」ということになった。

 早速、竹やぶの所有者に訳を説明し、竹を切ることを了承してもらった。そして十一月の休日を利用し、ふれあいネットワークの呼びかけに賛同した地区住民の有志四十数人が集結し、作業にあたった。延長約三十メートル、幅約五メートルにわたって竹やぶを切り開き搬出するのに三日、市の破砕機を借り受け、切り出した竹や木の枝の処分に一日、合わせて四日間を要したが、事故もなく、無事に作業は終了した。その直後から道路の拡張工事も始まり数カ月後には薄暗くて狭かった通学路が広くなって「陽(ひ)のあたる坂道」に変身した。十分とは言えないが、安全面でも改善された。

 そして一カ月ほど過ぎたある日のこと、所用で市役所へ出掛けた私に後ろから声が掛かった。振り向いてみると市の建設部長さんだった。部長さんは「西中の上り口の市道脇の竹やぶをきれいにしていただいて有難うございました。皆さんが一生懸命やってくれたので市としても道路の拡張を急いでやりましたよ」とにこやかに話しかけてきた。私たちは自分たちでしたことを特別に売りこんだ訳ではないが、きちんと見てくれていたのである。これは地域住民の自主的な活動に行政が応えてくれた一例である。

 こんなこともあった。ふれあいネットが実施している小学生の下校時パトロールでのこと。ある日の下校途中、低学年の女児が通学路脇を流れる水路の蓋(ふた)のすき間に足を踏み入れた。幸い大事には至らなかったが、これを見て危険を感じたリーダーの茂原伸紀さんは、その日のうちに自宅にあった角材ですき間をふさぎ、数日後にはコンクリートで蓋をして安全を確保してくれた。誰にでもできることではないが、自分にできることを実践した一例である。われわれの身のまわりには、誰にでもできることがいくらでもある。とかく事故や事件が発生すると、国や行政の責任にしたがる昨今であるが、何でも国や行政に頼るだけでなく、私たち地域住民が「できることは自分たちでやる」という意識を持ち、実践していくことが官民の協調を高め、住みよい地域社会つくりにつながるのではないか。






(上毛新聞 2007年3月3日掲載)