視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
太田市教委学校指導課主事 根岸 親(埼玉県深谷市上柴町)

【略歴】 福島市生まれ。大阪大大学院人間科学研究科修了。太田市教委の外国人児童生徒教育コーディネーター。ボランティア研修でブラジルに1年間留学した。

外国人の保護者

◎ひらがな覚える努力を

 「外国人の保護者は子どもたちの教育にあまり関心がない」。以前にそんな声を聞いたことがあるが、決してそうではない。外国人の保護者と話をしていると子どもたちの教育、将来に対する思いが伝わってくる。

 だが、日本の学校教育、教育制度が自分たちの出身国とは違うことも多く、戸惑いや誤解が生じることがある。例えば、先生が家まで訪れる、家庭訪問には戸惑う外国人の保護者が多い。林間学校などの宿泊を伴う校外学習に対して、「子どもだけなんて、心配だから参加させない」という保護者もいた。いずれの行事も日本では当たり前だが、出身国の学校教育にはないことであり、戸惑うのも仕方のないことだと思う。「当たり前のこと」ではないのだから、趣旨や内容についての平易な説明が必要になる。

 保護者の方には理解しようとする姿勢が必要となる。それがなければ、理解してもらえない、理解できないという不満が学校と保護者の双方に残ってしまう。だが、習慣、制度の違いを説明するのに必要な言語が違うという障壁がさらに立ちはだかる。

 このようなときに双方の言葉、文化を理解している日本語指導助手やバイリンガル教員は、学校と保護者をつなぐ上で大きな役割を果たしている。学校からのお知らせをポルトガル語等に翻訳したり、保護者からの問い合わせに答えたり、学校と共に地道な情報発信と対話を積み重ねてきた。少しずつではあるが、外国人の保護者たちの学校教育に対する理解は深まってきている。授業参観に参加してくれる外国人の保護者も増えてきている。

 さらにもう一歩進んで、保護者の方たちにせめて、ひらがなを覚えてもらえれば、得られる情報も格段に多くなると思う。それは子どもの学校教育だけでなく、日本社会のさまざまな情報にアクセスするのにも役立つ。

 一方で定住化に伴う新たな課題も出てきている。日本の学校に就学した外国人の子どもたちは最初、分からない日本語に苦労するが、徐々に日本語を覚え、学校生活にもすっかり適応していく。だが、日本語を習得する一方で、母語であるポルトガル語やスペイン語を忘れてしまう子どももいる。親は日本語が分からず、子どもは親の話す言葉が分からない。

 「ご飯だよ」「宿題はやったの」などの簡単な会話はできても、進路や将来についてなど複雑な話題になると親子で十分な意思疎通ができず、間に通訳が入らざるを得ない例もあった。親子間で十分な意思疎通ができなくなれば、親の持っている価値観や文化も子どもには伝わらない。母語、母文化を継承していく姿勢も家庭で大事にしてほしいと思う。

 保護者にはひらがなの習得、家庭での母語、母文化の継承と求めるものが多くなってしまうが、それは子どもたちが多言語、多文化を解する人材となるためには必要なことだと感じる。子どもたちも異なる言語、文化の中で一生懸命勉強している。保護者にもその後押しをしていただければと思う。






(上毛新聞 2007年3月4日掲載)