視点 オピニオン21
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前橋るなぱあく園長 佐藤 恭一(前橋市城東町)

【略歴】 東京大教育学部卒。元県庁職員。2人の息子を育て、父と母の介護も自分でして見送った。得意は料理。趣味は酒。家族は妻と猫1匹。自慢はよき友達。

中心商業地

◎捨てたもんじゃないぜ

 前橋商工会議所の若い職員が来た。用向きは『まちなか寺子屋塾』の宣伝を頼むとのこと。説明が始まると、中心商業地が『さびれて』とか、空き店舗ばかりの『さびれた』まちという具合に、『さびれた』をやたらと使う。あんまり使うんで、「ちょっと待ちな! あんまし、さびれた、さびれたって言うなよ」と気色ばむ。「みんな一生懸命やってるんだ、必死で頑張ってるちっちゃな店がいっぱいある。そういう店はさびれてなんかいないぜ」と。でも、宣伝は快く引き受ける。

 私のお弁当はおむすび四個。中身は、自分で漬けた梅干しと、「スズラン」地下の「十字し屋」のじゃこを中央通りの「小田原屋本店」の実山椒(みざんしょう)の佃煮(つくだに)で炊いたちりめん山椒。海苔(のり)は銀座通りの「鳥山海苔店」の海苔、おかずは中央駅近くの「肉のチャンピオン」の牛肉と牛蒡(ごぼう)の炊き合わせ、それに自家製の漬物、野菜は中央通りの「八百徳」か「八百駒」で買う。料理道具はほとんどが銀座通りの「道下」のもの、『さびれた』まちの立派なお店のおかげで毎日美味(おい)しい昼飯が食える。

 自転車は三河町の「辻岡モーターサイクル」、メンテナンスもちゃんとしてくれる。背負うのは中央通りの「鈴半」で買ったワンショルダー、みんながいいねっていう。休日は立川町の「焙煎館(ばいせんかん)」で暇つぶし、「パーラーモモヤ」のトンカツうどん食べたり、「青井食堂」に顔を出したり、「黒田人形店」でおもちゃを見たり、岩神町の魚のお師匠さん「養田鮮魚店」まで足を延ばす。『さびれた』まちには楽しいお店がたくさんある。

 「道下」に両手鍋を買いにいった。「あれ、恭さん、二十センチなら、行平(ゆきひら)持ってたんじゃない」とご主人。「ウン、持ってるけど、セイロが使えないんだ」と私。「そうか、それならこれどう…」って手ごろなのを見立ててくれた。あとは、二人でお決まりの猫談議、おまちのお店の買い物ってこんな具合なんだ。

 大型店みたいに山ほど商品を積み上げてればいいってこたない。勝手気ままに選ばせて、選ぶ目と知恵のない人にガラクタ売りつけるのは商人の恥と知れだ。おまちのお店って、ものすごく物知りなおじさんとおばさんがいる。いろんなこと教えてくれる。仲良くなれば、こっちの暮らし向きちゃんと覚えてて、ピタンコなのを選んでくれる。暇があったらまちを歩こうよ、そして、おまちのお店に飛び込もう。

 前橋に赴任してきた人が「左遷された」と感じるって話がどこかの新聞に載ってた。そうかもしれない。でも、こないだ、金沢の「十字屋」の社長さん、発展通りの「ひろ子」のカウンターで、「ここに来るとなぜかほっとする、前橋が一番」ってつぶやいてから、隣のジャズの店で、一人ピアノを弾いていた。

 捨てたもんじゃないぜ。このまちは。

 三河町の名店「きさく」の前で、小さな猫のコミが「でっかい奴(やつ)にはできなくても、チビだからこそできることがあるんだ」って。まちのお店も「るなぱあく」も一緒さ。『さびれた』まちの零細企業だ。もうじき「けやきウォーク」が開くけれど、メゲズに行こうよ。






(上毛新聞 2007年3月6日掲載)