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全国フィルム・コミッション連絡協議会専務理事 前澤 哲爾(東京都品川区)

【略歴】 館林市出身。慶応大卒。山梨県立大国際政策学部助教授。武蔵大客員教授。NPO一新塾理事。国際NGOシャプラニール評議員。地球環境映像祭審査委員長。

テレビの公共性

◎視聴率優先の番組内容

 一月九日、私が行ったスーパーでは納豆が売り切れていた。一体何があったのか不思議に思ったが、七日放送の「発掘!あるある大事典II」の効果だった。この事件によって、テレビの影響の大きさに驚くとともに、制作のズサンさに怒りを覚えた。いまだに、全容解明は進んでいない。

 同時期に、不二家が期限切れ食材を使ったことが判明し、多くの商品が販売中止になった。それに比べて、放送は菓子より相当甘い。不二家のすべての商品が該当しているわけではないが、マスコミは、「構造的問題だ」とか「子供の口に入るのに無責任」などと集中砲火を浴びせた。しかし、放送局は制作した番組をすべて検証したという話は聞かない。あの問題は、孫請けプロダクションの責任のように言われる。しかし、これこそ「構造的問題」であるし、「子供だけでなく、大人もだますという大変な無責任」なのだ。

 原因は、利益第一優先のあしき商業主義にあると断言する。民放は、過度な視聴率競争にまみれている。一日には、二十四時間しか放送時間がないので、その時間をできるだけ高く売るしかない。視聴率で値段が変わるからだ。日本は、電機、自動車と同じように放送局も世界で一番厳しい競争状態にある。

 余談だが、だから日本のテレビ番組は世界で一番面白いという面もある。欧米各国では、「コメディー」「簡単なクイズ」「議論」「トーク」などの安い制作費の番組ばかり。それゆえ、テレビ映画や映画は人気が高く、しっかり作る。その制作プロダクションには、著作権が認められている。

 日本では、局主導で視聴率を稼げる企画が優先的に進む。下請け制作会社はそれに応えるしかない。それに文句を言える会社はそう多くはない。「唇寒い」構造が根底にある。関係者は誰でも知っている。

 番組内容も視聴率が最優先だ。どの局でも、ゴールデンタイムにはタレントが騒いでいる番組が横行する。局の人にその理由を聞くと「見てくださる方が喜んでくれるからですよ」と視聴者ニーズをいつも口にする。実際は、一部の強力芸能プロの顔をうかがいながら企画されている。

 エピソードの取り上げ方も変だ。結果的にバランスの崩れた編成になる。読者は、次のことに疑問を感じていないだろうか。

 飲酒運転キャンペーンは正しくても、休職中の公務員が電柱に衝突したことでも放送するのか?

 東国原知事の毎日の細かな行動をそんなに詳しく報道する必要はあるのか?

 漁船の衝突した貨物フェリーが四回も事故歴があるというが、これは多いのか?

 生田神社の婚礼のために警察官三百人を警備に当たらせ、独占放送することは当然なのか?

 あのライブドアが某放送局の株を買収したとき、関係放送局会長が「テレビ局の公共性」を強調していた。私は違和感を覚えた。放送局が有限資源である電波を独占的に使用しているのだから、公共性は当然だ。しかし、現在放送中の番組を本当にその公共性を認識して制作しているのだろうか。






(上毛新聞 2007年3月7日掲載)