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県経営者協会専務理事 松井 義治(前橋市関根町)

【略歴】 中央大商学部卒。県経営者協会事務局長を経て、2002年4月から現職。群馬地方労働審議会委員、県労働委員会使用者委員、日本経団連地域活性化委員会委員。

ホタル祭りができるまで

◎お互いの考えを尊重

 対立する考え方を結論に導くには三つのやり方がある。上司が「オレが上司だからオレに従え」というのを「強制」という。重要なこと、緊急時などでは必要だ。上司が組織を間違いなく導けるならいいが、そうとは限らないから、通常、強制は避けるのが無難だ。

 また、「オレが半分譲るから、お前も半分譲れ」というのを「妥協」という。これは、正しい方向へ行っているうちはいいけれど、一歩間違えるととんでもない方へ行ってしまう。どうしても解決策がない場合は、対立したまま分裂するよりはいい方法だ。だから、政治の世界ではよく「妥協点を探る」などと使われている。でも、われわれが仕事をしている中で「妥協点を探る」などと言うと格好はいいけれど、妥協、妥協と続けているうちに、とんでもないところへ行ってしまうから、それはかえって危険だ。

 これらと違うのが「統合」というやり方だ。以前、ラジオで聞いた話なので間違いがあるかもしれないが、「NHK山口放送局から『ホタル祭り』の話題」というのがあった。

 山口市では、大雨になると水害が発生するので、堤防を築くことにした。ところが、自然保護団体から、そんなことをしたらホタルが絶滅してしまう、と猛反対された。その反対運動が激しくて、とうとう堤防を築くという案は撤回されてしまった。

 ところが翌年また大雨で床下浸水が発生し、やはり堤防を築こうという意見が沸騰した。人間が大事か、ホタルが大事かという議論に発展した。その議論の中で、新しい考え方として出てきたのが、「互いに矛盾する双方の主張をともに満足させることができないか」というものだ。真剣ではあったけれど、今までのような、誰かが引っ張っていくということにすると、その人が強制することが多いので、そういうやり方はとらないことにした。これでみんなが誰かに強制されることなく、自由に、公平に、対等に検討できるようになった。それだけでもハイレベルだった。

 その上、「水害が困るのはよく分かる」「ホタルが棲すめる環境が大事なことも分かる」と、お互いの主張を認めることにした。攻撃的な激しい議論をやめ、お互いの考えを尊重し、お互いに何とかしようという前向きの議論をした。かといって、本来の目的を取り消したわけではない。「水害を防止する」という固い決意、「ホタルの棲める環境を維持する」という固い決意、それは互いにしっかりと持っていた。難しい議論が続いた。

 やがて、その議論の中から、「ホタルブロック」が考案された。このブロックは、穴が開いていて、ホタルが棲みつけるし、堤防としての機能も持っているというものだった。これで両方の考え・主張がともに満足されることになった。それでホタル祭りができた。これこそ「統合」そのものだ。

 組織人にも、社会人にもホタル祭りができた過程に学んでほしいものがある。






(上毛新聞 2007年3月13日掲載)