視点 オピニオン21
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ジャストミート店長 荒木 啓晴(前橋市堤町)

【略歴】 立教大卒。百貨店勤務などを経て2001年、楽天市場に赤城牛のネット販売店「ジャストミート」を出店。県の「ぐんまの名物商人」に選ばれている。

ビジネスチャンス

◎もっと貪欲な気持ちで

 この二、三年、県内で開かれる講演会やセミナーで講師を務める機会が一段と増えた。県などの行政機関や地域の商工会が主催するものが多いためか、いつも会場はほぼ満員となる。県民のインターネットに対する関心の高まりが、こうした形で実感できるのはうれしい限りだ。

 ただ、壇上から残念に思うことが一つ。県内の講演で、私に対する出席者からの質問が非常に少ないことだ。もちろん、講演途中で話の腰を折るような質問は論外だが、質疑応答のために用意された時間に積極的な疑問の投げかけは数えるほどで、良い意味での“貪欲(どんよく)さ”があまり感じられない。社会人としての謙虚さ、慎(つつ)ましやかな県民性、そういってしまえばそれまでだが。

 講演という形で話す以上、何十人という参加者を相手に、ほぼ全員から理解を得られる内容は限られてくる。聞く側にしても、話の中からつかんだヒントを自身のケースに落とし込んだらどうなるのか、簡単に答えがでるとは思えないし、消化不良は絶対にあるはずだ。そんな疑問を、自分の中で答えに結びつかない部分をいま、この瞬間にぶつけてほしい。私としては、問われればギリギリの線まで手の内を明かす準備も、心構えもしているのだから、実にもったいないと思う。

 最近でこそ県内の依頼が増えたが、以前は講演といえば東京まで出向いていた。とりわけ、楽天市場が出店者向けに開く「楽天大学」からは、これまで何度もゲスト講師として招かれている。

 「楽天市場に出店して三カ月以内の方たちを対象に、成功への具体的ステップを教えてほしい」。楽天市場の担当部長から直々の依頼だった。だが、「成功へのステップ」と一言でいっても、内容が多岐にわたり過ぎるため一、二時間ではとても話しきれない。すると、「三時間お任せします。自由に使ってください」という。意気込みに感じ入り、そのときは「最初の一年ですべきこと〜最速で繁盛店に駆け上がる方法〜」と題して、自分の成功体験や失敗談をふんだんに盛り込んで、一回の講座のために内容をすべて練り直した。

 当日、全国から受講者が集まった。まさに北は北海道、南は九州。受講料と往復の旅費をかけて、丸一日の時間を犠牲にして、それでもなお、私の話を聞きたいという人たちばかりだ。講演内容から一つでも多くのヒントを持って帰ろうとする目はギラギラと輝き、顔つきは真剣そのもの。ピリピリするような緊張感のなかで、あっという間に三時間が過ぎた。その後の質疑応答にも次々と手が挙がる。それは「この好機を逃すまい」とする貪欲さの表れだった。

 日常の中にあっても、チャンスは思わぬところに転がっている。テーマに関心を持って足を運んだ講演会ならば、なおのこと。予想以上の収穫をあげる確率も高いはずだ。もしかしたら、探す宝物は、質問挙手のすぐ先に眠っているかもしれない。「この講師から全部を引っぱりだしてやろう」くらいの気構えでちょうどいい。私は受けてたちますよ。






(上毛新聞 2007年3月29日掲載)