視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
群馬大社会情報学部教授 森谷 健(前橋市鳥取町)

【略歴】 同志社大卒、関西大大学院修了。2003年から現職。専門は地域社会学・地域情報論。観音山ファミリーパークで活動するNPO法人KFP友の会の理事長。

中心市街地から発信

◎フリーペーパーSayan

 Sayan(さーやん)という題名のフリーペーパー(無料の新聞・雑誌)を、学生グループが作りました。印刷を除き、企画・取材・構成など作業を学生が行いました。

 これは、前橋市の中心市街地(通称「Qのまち」)を取材したものです。Sayanという名前の学生と彼女の友だちが「Qのまち」を散策する物語になっています。学生の視点から、元気がないと言われている「Qのまち」を見直そうという考えです。果たして学生たちには、どんなお店が魅力的に見えたのでしょうか。学生たちは、どんな人物を探し出してきたのでしょうか。元気のよいフリーペーパーだと、きっと感じていただけると思います。

 紙面構成が稚拙だとする「評論家」、学生が作っているがアカデミックな内容ではなく、まるで学園祭のノリだと言う「訳知り顔の大人」、こちらの店が掲載されてあちらの店が掲載されないのはまずいという「大人の事情」、製作の過程で学生たちは、これらにのらりくらりと、時には苦渋の妥協を繰り返し、対応してきました。なかなかのしたたかさです。

 このフリーペーパー製作は、前橋商工会議所と群馬大学社会情報学部による共同の取り組みですが、単にフリーペーパーを一回発行するというものではありません。もちろん、大学生や専門学校生、高校生に読んでもらい、「Qのまち」に足を運んでもらいたいという思惑があることは事実です。それ以上に強く意図されていることは、「Qのまち」からも新たな切り口の情報発信ができること、「評論家」、「訳知り顔の大人」、「大人の事情」からは決して出てこない切り口の情報発信があり得ることを示すことです。他の学生、若手商業者、近隣住民などの「したたかな」人々の手で第二号、第三号と発行されていく、今回の取り組みがその呼び水になればと考えています。

 学生の視点を尊重し、呼び水効果を重視した今回の取り組みは少々荒っぽいものであったかもしれません。荒っぽい取り組みをお許しいただいた前橋商工会議所に感謝申し上げます。

 実は、学生の企画段階で、商店街を考えるには、商店街がある市街地を考え、市街地の中に商店街を位置づけなくてはいけないという意見がありました。私自身、大いに勉強させられました。「都心と郊外」「業務空間―商業空間(第三空間)―居住空間」の構図から考えれば言わずもがなのことかもしれません。しかし、中心市街地の活性化が都市自体や商業者の方々にとっての逼ひっ迫ぱくした課題であるために、ややもすると等とう閑かん視しされがちであったのかもしれません。現下の市街地はどのようであるのか、どのようであり得るのかの議論から、商店街の話は始めるべきであると再確認させられました。これも、学生たちのおかげです。

 ちなみに、Sayanとは昨年夏、不慮の事故で亡くなり、今は学生たちの中で生きている仲間の呼び名です。






(上毛新聞 2007年3月31日掲載)