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地球屋統括マネジャー 小林  靄(高崎市東町)

【略歴】 前橋市生まれ。ちょっと変な布紙木土「地球屋」のデザイナー兼統括マネジャー。本名洋子。古布服作家、歌人としても活躍。著書に「花の闇」など。

着物文化

◎古来の良さ見直して

 人がものごとを始める時には必ず何かきっかけがある。その時は夢中で気付かないのだが、後になって考えるとそれが理由の一つになっていることが多い。

 「傷つきしわれより深き傷を負う娘が共に立てというなり」

 この短歌は私が現在の仕事を始めるきっかけとなっている。現在、着物地を使用した洋服を作っているが、当時は、目標がいきなりなくなってしまい、何をして良いのか分からないでいる時期だったが、その目の中に飛び込んできたのが着物の懐かしい色合いと、手触りの柔らかさだった。

 現在は認知症の方々の治療の一環として、昔の着物などを見せたり触れさせたりして脳の活性化を促すことが試験的に始まっていると聞く。なるほど、当時の私にはぴったりの作業だったのだろう。それにも増して、前々回(昨年十二月二十二日付)触れた、ものを作ることで癒やされるという図式がぴったりと当てはまったのかもしれない。「ものづくり」はさまざまなところで、さまざまな形で計画されたり実践されたりしているのもうなずける。

 ところでその着物のことだが、日本の伝統的な衣装であり、受け継いでいかなければならないものであると考えている。着慣れた方はそのまま受け継いでほしいし、そのままではちょっと取り入れ難いという方には、現代にあった方法に変化させつつ取り入れてほしいと思っている。

 例えば、一番身近な日常の生活についてだが、生活環境の変化で衣食住ともかなりの変化を迫られ変貌(へんぼう)してきている。その中で、今着物を見直そうとする機運が高まっているということは、急激に、競って外国文化を取り入れてきた今までの生活を振り返る余裕が生まれてきている、ということなのかもしれない。急激な変化で失ってしまったものを、もう一度取り戻そうとする気分である。ただ、単純に元に戻すのではなく、その間の時代の流れも加味しなくてはならなくなっていて、変化を迫られているのである。

 着物はまさにそれに当たる。折に触れ、事あるごとに新調していた着物をわれわれは簡単に捨てられないという、日本人特有の「もったいない」精神を受け継いで生活している。だからこそ、いまだたんすの奥のほうにしまわれているのである。

 昔、「地球が滅びる時、唯一の民族を残すとしたらそれは日本人だ…」と、フランスのある詩人が残しているとの文章を目にしたことがある。安倍晋三総理が「美しい国…」と言われるゆえんでもあるのだろうし、それに戻せる可能性もたぶんにあると思っている。

 着物は古くから受け継がれ洗練された「形・色・柄」を有し新鮮な魅力さえ感じる。それらを生かして現在を闊かっ歩ぽしたいと考えている。エコロジー・リサイクルなどと私は今タイムリーな位置にいる。着物の、時代に合わない「着づらい部分」を少し減らし、洋服の「活動的すぎる部分」を少し減らし、「着物ではなく、洋服ではなくて…」の魅力的なものに変化させたいと考えている。






(上毛新聞 2007年4月15日掲載)