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ノイエス朝日チーフ 武藤 貴代(前橋市)

【略歴】 桐生市出身。1981年から20年間、煥乎堂に勤務し、画廊担当のほか、出版編集業務に携わる。2003年、入社した朝日印刷工業のノイエス朝日担当となる。

環境づくり

◎人間形成に影響大きい

 作家の仕事場を訪ねた帰りに車で山間部の直売店に立ち寄ると、フキノトウやタロッペ、コゴミなどが色鮮やかに並んでいた。季節感を楽しむ食卓には山菜の天ぷらが山のように盛られ、自然からの春の恵みを味わうことができる。海なし県である群馬にいながら流通の発達から新鮮な魚介類も入り「食材の豊かな県」を実感する。新鮮で旬な食材がそろうということがどれほど恵まれていることか、他県からの来訪者に食の話をすると痛切に感じる。

 春は、散歩をしながら摘んだヨモギで草餅(くさもち)を作り、川辺で摘んだセリをおひたしにし、夏は、ヤマメやイワナの焼き物。秋は、クリタケ、アカンボ、イッポンシメジなど天然茸(きのこ)を入れた煮込みうどん。冬は、ユズやイチゴでジャムを作ることにより、自然と共存し、その恩恵を受けている。

 社会構造が変化し、核家族化が進み、最近では子供を連れて野山を歩く親も少なくなり、子供たちが自然の中で行動するのは、自然と向き合うような特別なシステム化されたクラブや組織の一環としての活動になっている。子供を取り巻く環境づくりは、大人の責任に負うところが多い。感受性の強い子供が生活環境の違いから人間形成にどれほどの影響があるか、今一度考える必要があるような気がする。

 以前、子供と旅をするとき、一泊は安宿で、もう一泊は少し高級な宿を経験させる話を聞いたことがある。料金の高い安いはともかく、その二泊の体験で子供自身が考えるであろう多くの問題を含んでいる提案だと思った。

 昔、コーヒーのコマーシャルに「違いがわかる男」というコピーがあったが、違いがわかるためには多くのあらゆる経験を積み重ねることしかない。そんな考える環境をつくることも大人の役割のようだ。現在では、「違いがわかる大人」になっても、さらに大人の環境づくりが必要になってきている。

 団塊の世代が退職後、どのように社会とかかわり、どのように毎日を過ごしていくか、社会問題として新聞やテレビで毎日のように取り上げられている。経済的安定と十分な時間の中で、健康で生活できる幸せが誰にでも与えられるわけではない。不安定な生活の中で真剣に生きている人もいれば、病気と毎日向き合い明るく生きようとしている人もいる。また、深い悲しみや苦しみに耐えながら、日々過ごしている人もいる。大人のための環境づくりの必要性は今後ますます増えていくことだろう。

 人の字の成りたちが、支え、支えられるところからできているように、人の悲しみ苦しみを少しでも和らげられるのも人。そして環境。自然豊かな群馬は、子供にとっても大人にとっても生活していく条件としては、非常に恵まれた環境づくりが考えられる場所がらだと思う。自分の生活環境をあまり固定化せず、自由な発想ができるような柔軟な思考回路で今後の生活空間づくりをしていくように、交流のもてる場所づくり、環境づくりを公的機関も、個人レベルでも考えていきたいものだ。豊かな食生活には健全なる精神が宿る。






(上毛新聞 2007年4月17日掲載)