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県経営者協会専務理事 松井 義治(前橋市関根町)

【略歴】 中央大商学部卒。県経営者協会事務局長を経て、2002年4月から現職。群馬地方労働審議会委員、県労働委員会使用者委員、日本経団連地域活性化委員会委員。

人材

◎年齢や勤続年数でない

 経営者の役員任期制、部課長の管理職定年制を導入している企業がある。合わせて役職定年制という。人事の停滞、組織活動のマンネリ化などを防ぐ狙いだが、次々と新しい人材を輩出する企業でない限りうまく機能しないようだ。

 会社を大きく発展させてきた社長が、自ら役員任期制を導入し、任期が来たので引退した。退任を惜しむ声と引き際の鮮やかさを称賛する声とが入り交じった。後任に若い取締役を抜擢(ばってき)し、古参者がいたのでは若い社長はやりにくいだろうと、前社長とともに修羅場をくぐり抜け、会社発展の原動力となってきた重役たちを退任、転出させた。「トップの思い切った若返り人事」と注目を浴びたが、この人事は失敗に終わった。組織は乱れ、お得意さんが離れだして会社の業績が下がり、危機に直面したからだ。

 そうなった主な理由の一つは、年齢が高いというだけで、ほかに替え難い人まで出してしまったことにある。確かに加齢による衰えや限界はあるが、何歳だからだめ、何年(何期)務めたからだめ、逆に若いからだめということでもない。当然県外者はだめといったことも問題にはならない。顧客から信頼され、成果を上げる人をほしいのが生き残りをかけた企業の本音だ。

 今は企業間競争がし烈を極めているから多くの企業で「成果主義」がとられ、成果に応じた人事や処遇が行われている。行き過ぎた成果主義では困るが、成果を上げられない者はもはや戦力とならない。成果を上げている人材を放出してしまうとすればやり方が逆だ。

 二つ目の理由は、ベテランたちがこれまでに培ってきた広い人脈が、彼らの退任とともに失われたからだ。人脈は人と人の強い絆(きずな)で結ばれているから、確かに引き継ぐことができない。しかも、企業を構成している「人、物、金、情報、信用…」の、物を扱うのも人、金を動かすのも人、情報を受発信するのも人、信用を得るのも失うのも人による。人そのものには絶大な影響力があるのだ。だからベテランたちが長い間に築き上げた人脈を断ってしまったら、金も仕事も信用も失うのに等しいといって過言ではない。

 三つ目は、新社長が、すべての仕事に精通せず、人の使い方に長(た)けていなかったことにある。組織が大きくなれば仕事を知悉(ちしつ)することなぞとてもできないから、経営の仕方や帝王学を身に付けなければならない。それなしにトップに立った新社長は、ベテラン社員をうまく使いこなせないから、社長という地位に伴う権威(ポジション・パワー)で指導することが多くなった。

 その結果、新社長に諫言(かんげん)する者がいなくなり、イエスマンに囲まれた新社長は「裸の王様」になっていった。やがて、組織にひずみが生じ、人間関係が乱れてしまった。組織は仕事と人間とで編成されているのだから、人に乱れが生じたら仕事にも乱れがでる。外の人脈、内の人間関係、いずれも強く結ばれていなかったら企業活動に支障を来すのだ。そうなれば当然仕事の成果は上がらなくなる。

 これはトップ人事の一例にすぎないが、人材は年齢や勤続、任期で決まらないのだ。






(上毛新聞 2007年4月21日掲載)