視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
脳機能検診センター小暮医院長 小暮 久也(埼玉県深谷市中瀬)

【略歴】 慈恵医科大卒。米マイアミ大や東北大の医学部神経内科教授、世界脳循環代謝学会総裁など歴任。「明日への伝言」など一般向け著書も多数。深谷市出身。

家庭と隣人

◎子育てに適した関係を

 久しぶりに前橋に出て道に迷い、私はデパートまでの何ブロックかを歩くことになった。途中、車道を数人の女生徒がにぎやかに談笑しながら横断しているのを見たが、彼女たちは、道を譲った自動車のドライバーにあいさつをするどころか、互いに興じあっているだけでそちらは完全に無視している。

 歩道に上がると今度は道幅いっぱいの塊になって、子供を避けるでもなく、大きな荷物を抱えたおばあさんに道をあけるでもなく、まさに傍若無人に移動していく。私たちが長く住んでいたアメリカの社会には、言いたいこともいろいろあったが、こういう情景は目にしたことがない。外見は中学生並みだが、心は幼児程度にしか育っていない彼女たちがこのまま大人になってしまったら日本は崩壊する。

 デパートの売り場では、五歳くらいの男の子が、うつむいて母親の後ろをついていく。よく見ると、手にしたゲーム機の操作に夢中で周りにはまったく関心を示していない。デパートに来た子にしては異常である。しかし私は、子供には目もくれないでウインドーショッピングに余念のない若い母親のほうにより多くの危機を感じた。

 日本の教育が病んでいるという。教育の初期段階は育児・保育の期間である。通常、幼児の心に十分な社会性が育ち、学校教育が受けられるようになるまでには平均六年、あるいは七年かかる。従って義務教育を法制化している国での就学年齢はおおむね六歳から七歳で、それまでの育児や保育は家族と、時には家族の周りの社会や保育園がかかわり合いを持つ。欧米では教会が大きな役割を果たしている。

 小学校低学年生が教室に適応できないでいるときは、家庭での子育てに問題があるか、病気や事故などによって子供がいまだ十分な社会性を身に付けないままで就学していることが多い。その場合、親子を取り巻いている社会が十分に互助的であれば、拡大された家族同士の付き合いが子供の社会性を育てる上で大きな助けになると期待されている。一方、隣人間の交流がない地域では、弱者になった親子が孤立して思わぬ悲劇が発生することもある。

 家庭と家庭を取り巻く人々との関係が子育てに適していなければ、子供は人との付き合い方を知らずに育ってしまう。学校でのいじめの発生や、度を過ぎた暴力行為にはそのような背景があると私は思っている。近代的な仕事の場の多くは契約社会になっていて、勤労者の家族同士の助け合いなどは、要求されていない。そういう仕事先から帰宅しても、人がすぐに人間味豊かな親や家庭人、あるいは隣人へと変身するのは大変に難しいことであろう。が、問題意識を持って努力すればできないことではない。教育再生のために、まず子育てに適した隣人関係、そして町や村を育ててみてはいかがであろうか。






(上毛新聞 2007年5月2日掲載)