視点 オピニオン21
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太田国際音楽セミナー事務局長 栗山 貴美子(太田市飯田町)

【略歴】 コンセルヴァトワール尚美などでピアノを学び、数々のコンサートや音楽セミナーを企画、地域への定着を図る。ピアノ教室主宰。太田クラフィーア研究会長。

音楽は心の友

◎まず身近な演奏会へ

 私はオーケストラの演奏が好きである。開演のベルが鳴り、しばしの静寂の後、楽器を手にした団員たちが一人二人とステージに現れ、やがて全員で音の調整を始める。すべての準備が整い、指揮者が颯さっ爽そうと現れ、タクトが振り下ろされた瞬間から音楽の中へ引き込まれていく。そして至福の時を過ごすのである。

 初めてオーケストラを聴いたのは群馬交響楽団の移動音楽教室であった。戦後間もないある夏の日、トラックで私たちの小学校へ来た。会場は学校の教室で床に座って聴いた。どの子供たちも、食い入るように演奏に聴き入った。まるで別世界にいるようであった。群響は戦後の殺伐としていた時代に、音楽を通して私たちの心に温かい灯をともしてくれ、生きる勇気と希望を与えてくれた功績は大きい。

 今では全国各地に立派なホールが建設され、世界中から著名な音楽家が来日するようになった。しかし、振り返ってわが国の音楽状況を考えるとき、私たちの生活の中に本当にクラシック音楽が入ってきているのであろうか。海外からの有名音楽家は別として邦人音楽家の演奏会は大半が演奏者のリスクの上に成り立っているのが現状である。

 音楽を楽しむには立派な会場でなくても身近にあるコンサートへ出かけたらどうであろうか。太田市では毎週一回、市役所ロビーで昼休みコンサートが開かれている。演奏者もプロアマ問わず、トークを交えた気軽なコンサートである。クラシック、ポピュラー、邦楽など幅広く、聴衆も自分の好みのジャンルに合わせて訪れる。

 これは、われわれの生活に根づいたコンサートの形ではないだろうか。最近は各ホールとも創意工夫して子供連れのコンサートも企画している。幼少より生の音楽に触れることは人間形成の上で大切なことと思う。最近のテレビ番組「のだめカンタービレ」の人気には驚かされる。今やベートーベンの第七交響曲が最もポピュラーな曲となっている。まさにテレビの影響力は大きい。物語中クラシック音楽が登場人物の個性と相まって見る者を説得する。そして演奏家というものは、気難しく自分たちとは違った世界にいると思っていたのが案外普通の人であったというのが、見る者の心をつかんだのではないだろうか。このブームが一過性に終わらないよう願っている。

 モーツァルトは父親への手紙で「僕の音楽は素人でも専門家でも楽しめるものです」と誇らしげに書いた。クラシック音楽は決して難しいものではない。本来万人のために開かれているものである。多くの作曲者たちが日常の生活を通して感じた喜び、悲しみ、悩みなど、心象を音につづったものなのである。偉大な作曲者たちも、私たちと同じ人間としての感情を有していたのである。

 遠い昔の夏の日、初めてオーケストラを聴いて以来、クラシック音楽は私の心の友となった。うれしい時も悲しい時もいつも傍らにいてくれる。これからも一生の友として、私の人生を豊かなものにしてくれるだろう。






(上毛新聞 2007年5月15日掲載)