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県フェンシング協会理事長 吉澤 博通(昭和村貝野瀬)

【略歴】 群馬大教育学部卒。沼田フェンシングクラブ代表。日本フェンシング協会評議員。県内小中学校に長年勤務し、現在は昭和村立昭和中学校校長。

スポーツ選手と目標

◎実現可能なステップを

 オートバイ、ロードレースの青木三兄弟という凄腕(すごうで)レーサーがいる。渋川市中郷町出身で、世界大会で上位入賞する活躍をした兄弟である。

 十年ほど前、勤務地が旧子持村になった時、この青木三兄弟の実家を訪れた。三兄弟のお父さまに、どのようにして世界に通用するオートバイ選手を育成したのか尋ねた。彼は「頑張れば勝てそうなレースに出す。勝てたらもう少しレベルの高いレースに出す。負けたら、その選手の出るレースに出場させ、勝つまで勝負させる。そして、勝てたら次の目標の選手をさがし、レースに出す」と話してくれた。つまり、実現可能な目標を与え努力させる。目標となる選手に勝つようモチベーションを高める。その積み重ねが三人のレーサーの実力をはぐくんできたということである。

 私は、子どもたちにフェンシングを指導しているが、スポーツ選手の育成にも同じようなことが言えると思う。

 沼田フェンシングクラブには現在、小学校三年生―中学校三年生まで四十人の子どもたちが所属している。フェンシングを始めたばかりの小学生から、日本代表で世界大会へ出場した選手まで技術レベルはさまざまである。毎週一回、全体練習を行い、中学生を中心に全国大会入賞を目指している者は他に二回練習している。中学生には、体力は学校の部活動で付けさせ、フェンシング練習では、フェンシング技術の習得と試合形式の練習を重視している。また、小学校から高校まで、フェンシング技術の積み上げを考え一貫指導体制をとっている。

 小学生には、基礎的な技術習得と突きの正確さを重視し、中学生には、基礎的な技術を洗練させ、よりスピードのある剣さばきを習得させる。高校では部活動になり、複雑な動きの中から正確に技を駆使できるよう体力や技術を磨くようにしている。そして、数々の試合に参加させる。県内大会から、各クラブ主催のローカル大会、関東大会、全国大会などさまざまなレベルの大会があるので、子どもたちの技術レベルに応じて目標を持たせる。

 例えば、「県内で入賞」「○○大会で二回戦まで」「全国大会で優勝」などである。これらは、その子にとって、一生懸命練習すれば実現可能な目標である。そして、全国大会を狙う子どもたちは、トップレベルの選手が集まる各種大会に参加させる。また、東北地方から近畿地方まで、県外で行われる練習試合や合宿に連れていき、いろいろな選手と対戦させる。こうすることで目標とする相手ができ、子どもたちのモチベーションが高まる。そうすると子どもたちは、どうすればもっと勝てるか自分で考え工夫するようになり、自己の実力の高まりを感じられるようになる。

 実現可能な目標を小ステップで与え、モチベーションを高めて努力させる。そして、最終目標を高く設定してその実現への可能性を感じさせてやることで青木三兄弟に近づきたいと思っている。






(上毛新聞 2007年5月18日掲載)