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駒沢大非常勤講師 若林 宏宗(太田市東長岡町)

【略歴】 駒沢大大学院修士課程修了。高校教諭、県教委勤務を経て桐生高校長で退職。太田情報商科・太田自動車整備の両専門学校長。著書に「南極大陸まで」など。

アイスランドに学ぶ

◎知恵と忍耐で自然克服

 「地理教師見てきたようなウソを言い」に挑戦した七大陸への旅の始まりは、アイスランド学術調査だった。テーマは「アイスランドにおける人間の火と氷との戦い」で、火は火山、氷は氷河・氷床などを指す。アイスランドは、北大西洋北部の中央に位置する島で、面積は日本の北海道と四国を合わせたほどである。

プレートテクトニクス論では、アイスランド島はユーラシアプレートと北米プレートの境界に位置し、両プレートに引き裂かれている。そしてこの二つのプレートは、はるか一万キロ先の日本列島で逆にぶつかり合って沈み込んでいる。つまりアイスランド島と日本列島は、二つの同じプレートの両端にあって逆の作用をしているのである。

 この壮大な見方から離れ、もっと身近なことでアイスランドをみてみよう。学術調査テーマに対する結論の一つは、「アイスランドの人々は、火と氷との戦いに打ち勝ち、極北の孤島に豊かな文化国家を形成している」であった。厳しい自然条件を忍耐と知恵で克服し、国の豊かさは常に世界のベスト5以内である。

 その知恵の例では、荒れ地改良のための土作り、寒さを克服するための半地下式住居の改良を繰り返し、少人数で広大な牧場を管理するための開け閉め不要の水平柵、温泉利用で熱帯作物をも栽培する温室の開発や温泉の家庭供給、貝で補う石灰岩不足など、悪条件克服の工夫が至る所でみられる。また、ビールは麦などの材料がなく国内で製造できない。経済を圧迫するので輸入を禁止し、全国民が我慢した時期もあった。

 誠に好ましく思うのは、例えば医学の優秀な研究者が在米二十年後に帰国し、母国アイスランドで発病を防ぐ遺伝子の実用化に取り組んでいることなどだ。そのまま欧米に残らないで、貴重な研究の成果を持って母国に帰る碩学(せきがく)が多いのである。

 さらに好ましいのは、「アイスランド式子育て」である。アイスランドの冬は長いだけでなく、一日中ほとんど真っ暗という時期さえある。そこで、いきおい夏に工事やさまざまな仕事が集中する。しかし、全人口二十八万人のアイスランドでは、学生、生徒も貴重な労働力としてあてにされる。学校の夏休みは三カ月もあるが、これは暑さを避けて休むためではない。子どもたちに働いてもらうためなのである。また、冬は家の中で家事をよく手伝う。当然、忍耐力のある人間に育つ。

 一方、子どもがやりたいということは、年齢が低くてもかなりのことをさせてやる。しかし、その結果、子ども自身に厳しく、冷たいほど責任をとらせる。当然、軽はずみでない責任感のある人間に育つ。私は子どもを三人育てたが、この「アイスランド式子育て」を導入したところ、マラソン、登山、部活、受験勉強などに強い、心配のない子に育った。

 日本からは遠く、小さな国だが、魅力的で見習うべきことの多いアイスランドから、いろいろと学びたいものである。






(上毛新聞 2007年5月19日掲載)