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ジャストミート店長 荒木 啓晴(前橋市堤町)

【略歴】 立教大卒。百貨店勤務などを経て2001年、楽天市場に赤城牛のネット販売店「ジャストミート」を出店。県の「ぐんまの名物商人」に選ばれている。

ネットの商売

◎客と店つなぐ宣伝媒体

 だいぶ以前のテレビコマーシャルに、地方の小さな酒蔵がホームページを立ち上げて、海外に住む日本酒ファンと直接取引する内容のものがあった。大手コンピューターメーカーのコマーシャルだったから、「当社のパソコンを使えば、だれでもインターネットで世界を相手に商売できます」という趣旨。そんな影響もあってか、いまだに「ビジネスでのインターネット活用」というと、そのまま「全国を商圏とするインターネット通販」をイメージする方が多いようだ。

 「うちの商材(サービス)は、ネット向きじゃないんですよ」。経営者の方と話すと、よく耳にする言葉だが、でも、本当にそうだろうか。「通販向きでない」を「インターネット向きでない」とはき違えていないだろうか。インターネットなんて、しょせん“道具”でしかない。それも、多くの可能性を秘めた極めてシンプルな道具だ。単純な道具ほど、個々の自由な発想のもと、いろいろな使い方があっていいはずだ。

 一例を示す。もう五年も前の話だが、頭に浮かんだビジネスモデルを試してみたくて、県内で焼肉店を営む知り合いにお願いごとをした。その内容は、携帯電話へのメール配信によって既存客の来店頻度を上げられるのでは、というもの。

 店内で客に事情を話し、了解を得たうえで携帯電話のメールアドレスを教えてもらう。そのアドレスをパソコンに登録しておいて、週一回程度、お店の情報を客の持つ携帯電話に送る。配信する内容は、新メニューやイベントの告知だったり、入店時にメール文面を提示するだけで優待が受けられるものだったり、とさまざま。

 結果、この試みは予想以上に効果があった。最初の数カ月で四百人ほどのアドレスが集まり、全配信数の一割に当たる約四十組が一日に来店するときもあった。瞬時に多数に伝達できるメールの特性を使えば、だれもが「今日の昼食は何を食べようか」と考え出す時間帯を見計らって、ランチメニューのお得情報を流したりすることもできる。受け手となる客からの評判も上々で、もちろん焼肉店にも喜んでもらえた。

 プロの手による難解なプログラムを使ったホームページも必要なく、配信システムも一般的なパソコン一台のみ。ダイレクトメールやチラシと違って用紙代も印刷代もかからず、配達に際して送料も折り込み代も発生しない。わずかな手間と電気代だけで、店と客をダイレクトにつなぐ「夢の宣伝媒体」ができてしまったわけだ。

 鮮魚店が「今日はサンマがお買い得」を知らせてもよいだろうし、理髪店が「本日のみパーマ三割引き」なんて使い方もできるだろう。もっと視野を広げれば、アイデア次第で商店街全体の活性化にさえ利用できるかもしれない。

 インターネットだからといって、必ずしも日本全国や世界を相手にする必要はない。むしろ、ごく身近な小さなコミュニティーの中でこそ、インターネットの潜在的な力が開花するのではないだろうか。みなさんにとって、何かのヒントになれば幸いだ。






(上毛新聞 2007年5月27日掲載)