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吾妻山岳会長 山崎 孝利(東吾妻町郷原)

【略歴】 中之条高卒。あがつま農業協同組合などに勤務後、現在は県自動車整備振興会吾妻支部事務局長。東吾妻町観光協会副会長。県自然保護指導員。

多様性生かした利用を

◎国立公園と自然保護

 二○○五年、知床の世界遺産登録が決定した。世界遺産は、自然環境などの「自然遺産」と建造物などの「文化遺産」に大きく分けられるが、知床は自然遺産として登録された。国内の自然遺産としては、白神山地、尾久島に続いて三番目となる。経過をたどると、幾度となく行われた地域、行政との話し合いの中で、住民や基幹産業である漁業関係者から猛反発が起きた経緯も忘れてはならない。

 「世界遺産なんか、もういらない」という声も聞かれ、日本政府(環境省)と関係町村は漁業と自然保護を両立させるマスタープランを策定し、理解を得た。

 しかし地元の課題も少なくはない。流れついた「ごみ」の処理、エゾシカの「樹皮食い」によって枯れていく森。登山者、観光客に守ってもらうルールの徹底もこれからが大変なのかもしれない。知床が世界自然遺産であり続けるために、惜しみない協力をいただきたいものだ。

 国立公園や国定公園、都道府県立自然公園の保護と利用について規定する自然公園法が○二年に改正され、翌年から施行された。現在、日本には国立公園が二十八、国定公園が五十四、都道府県立自然公園は二百九十九あり、国土全体の14%を占める。

 戦後の国有林の大規模伐採、一九六○年代からの山岳道路や大規模林道の建設、レジャー施設とリゾート地の開発が自然公園内でも行われ、今考えてみれば自然公園法はほとんど力を発揮できなかったきらいがある。さらに山岳奥地への交通アクセスが便利になったことを背景に、九○年代、中高年を中心とした登山ブームが広がった。これにともなって登山道の荒廃、植生の破壊、屎(し)尿処理を原因とする水質汚染などオーバーユース(過剰利用)問題が各地で発生し、生態系の破壊も各地で起きている。

 日本の国立公園は林野庁の管轄する国有林や大企業・個人の所有地など、すでに土地所有があるところを指定した地域制公園であり、管轄官庁である環境省が所有していない。複雑な縦割り行政にも大いに問題があると考える。

 ○七年二月、県国土利用計画審議会で上信越国立公園を一、○一六ヘクタール縮小する自然公園地域の変更案を承認した旨の記事を拝見した。嬬恋村が五二一ヘクタール、草津町が四五九ヘクタール、六合村は三六ヘクタール。現在はキャベツ畑や宅地で利用されている地域とのこと、何か釈然としない変更案であると解釈している。

 自然環境と保護についても公園内の多様性を生かした利用策が行政とともに考えられてもいいだろう。そのためにも、山岳団体や山岳愛好者、自然保護団体などの意見を十分に反映した規制、管理をめざすことが必要だ。自然の恵み、偉大さを考えた施策を切望する。






(上毛新聞 2007年6月7日掲載)