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草津温泉フットボールクラブ取締役 鳥谷部 史(東京都大田区)

【略歴】 慶応大経済学部卒。野村総合研究所で経営コンサルティング部長などを歴任。現在はコンサルティング事業本部業務管理室長も務める。東京都生まれ。

ザスパ起点に形成を

◎地域コミュニティー

 先般報道されたとおり、ザスパ草津は初めて財務上の黒字に転換した。これもサポーターさん、スポンサーさま、自治体各位、その他の皆さんの大変な支援のおかげとあらためてお礼を申し上げたい。

 さて、この黒字化の第一の要因はスポンサー収入を前年比150%と大幅に伸ばしていただいたことである。一方、経費サイドを見ると、選手寮、仮設スタンドなどの初年度環境整備費の消滅、一昨年の経営体制刷新直後からの大幅な試合運営費圧縮策の継続、そして群馬県殿の多大なるご理解により実現していただいた競技場使用料の減免という初年度とは大きく異なる三つの削減ポイントがあった。

 減免を別にすれば、実は一年以上前、営業部隊がスポンサードを確定させた時点で、今回の決算黒字はかなり約束されていたといえる。だからこそクラブとしての再生の正念場はこれからなのである。「入場料、グッズ収入の増大」と言ってしまっては身もふたもないが、これこそがクラブが地域に密着しているかどうかの具体的な指標である。しかし、そのために何をするべきか、どうなるべきか…。

 チームが強いこと、優勝を狙い続けることが実感できる位置にいることや、昨今のゴルフや大学野球に見られるようなスーパースターの出現がもっとも容易な集客の道であろう。もちろん選手がメディアや店頭、街頭などで多くの方と触れ合い、関心を持っていただく地道な活動も続けていかねばならない。さらに今般のザスパ自動販売機のように、多くの人の目に触れるような機会を提供し、さまざまなサポーターさんとの接点の拡大も重要である。そして、どうなる…。

 大西忠生前社長の「地域の人たち(特に子供たち)に『夢と活力』を与えるとともに子供たちの『目標となる』という言葉の具体的イメージは、クラブ発足当時から以下の通りである。いつも県民の皆さんの話題に自然に上ること、家庭では「今日のザスパどうだった?」と、企業や学校では月曜日に「昨日のザスパの試合、面白かったね」と、そして究極は主語がなくなることで「昨日、勝ったね」。子供たちはザスパにあこがれて下部組織に入り、それが中学、高校に伝播(でんぱ)し、地域のサッカースキルがさらに向上し、ザスパに戻ってくる。

 一流選手は海外に雄飛し、そうなるとスペインのバルセロナ(サッカークラブ・ソシオ会員が十四万人、シーズンチケットは行列待ち、ソシオ年会費だけで数十億円の収入といわれる)に匹敵するような極めて安定した経営体質となってくる。夢は果てしない。

 国の統計によると、群馬県人は、全国でも有数の勤勉でまじめ、かつ経済性豊かで、スポーツは好きであるが、趣味・娯楽に消費する時間が少ない。だからこそ、ザスパが起点となって地域コミュニティー、ビジネスコミュニティーを形成することは夢ではないと信じている。とはいえ、夢ばかりを語っていてもせっかく黒字化を果たして社会の一員と認められたことは維持できない。いまプロチームが存在することを喜びながら、まずは、目前の試合、一つ一つを楽しんでいただけたら幸いである。






(上毛新聞 2007年6月22日掲載)