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全国フィルム・コミッション連絡協議会専務理事 前澤 哲爾(東京都品川区)

【略歴】 館林市出身。慶応大卒。山梨県立大国際政策学部准教授。武蔵大客員教授。NPO一新塾理事。国際NGOシャプラニール評議員。地球環境映像祭審査委員長。

FC再考

◎地域に効果の還元を

 私が日本にフィルムコミッション(FC)をつくる活動を始めたのは、一九九九年である。そのころ、日本にはFCはなく、二、三年のうちに五つくらいできればいいぐらいに思っていた。ところが、翌年には以前から準備していた大阪と神戸に発足、続いて横浜と北九州と、相次いで四つのFCが生まれた。その後はまさに雨後の筍(たけのこ)のように、毎年増え続けた。

 現在、全国組織であるFC協議会に加盟しているFCだけで九十五もある。マスコミは常に、数の増加を発展と捉とらえて取材をしに来たが、私の答えはいつも同じである。「多くの地域の人々にFCが理解されることになり歓迎な面もあるが、小さなFCの乱立は、制作者の問い合わせ先が増えることでもあり、逆に不便になる場合もある」。数が増えれば、いいというものではない。広域で機能的なFCが理想である。

 数の問題もさることながら、内容でも課題がある。しっかり勉強する準備期間を経て設立するべきなのだが、「地域活性化の切り札」とか持ち上げられ、「隣がするなら、負けずにうちも」と変な競争意識が拍車をかけた。あるFCから電話で「FCを立ち上げたのに撮影が来ません。何とかなりませんか」と言われたこともある。FCを立ち上げさえすれば、すぐに何とかなるという幻想をお持ちのようだ。そんな簡単に「地域活性」ができるなら、誰も悩みはしない。

 撮影経験が少ないFCは、せっかく来てくれたのだからと過剰なサービスをしてしまうところもある。地域の人にとってうれしいのは理解できるが、一方で制作者を甘やかす結果になる。未熟な制作担当者は、FCは何でも言うことを聞いてくれると勘違いし、他のFCに要求したりする。FCも制作者も、互いの責任範囲をあいまいにすることで混乱することがある。

 私が最近講演などで強調していることは「FCは制作会社の下請けではない」ということだ。ロケに協力することは目的でなく、地域振興のための手段にすぎない。その機会をうまく利用して、地域に効果を還元するところにある。何でも言われるままにサービスする必要はない。もっとしたたかであるべきである。FCと制作者は、同等なパートナーなのだ。

 名誉のために言うが、群馬県のFCは実に個性的でしっかりしている。高崎FCは、数多くの経験に富み、マネジメントに定評があり、制作者からの要望を見事に実現している。わたらせFCは、民間主体で極少予算でありながら、本気の制作者には本気で対応し、絶対の信頼を勝ち得ている。嬬恋FCは、豊かな地域コミュニティーを生かし、スタンスがぶれず、気持ちの通った対応をしている。群馬のFCは各地域に合った独自路線をきちんと持っていて、全国のFCの鏡である。

 さる六月十五日、FCの全国総会を沖縄サミットの「万国津梁館(しんりょうかん)」を会場にして開催した。会長が、札幌市長から福岡市長にバトンタッチされた。この会場で、私は全国組織の改組を提案した。FC設立支援の段階は終了し、いよいよ次のステップに進むことになる。






(上毛新聞 2007年6月25日掲載)