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県フェンシング協会理事長 吉澤 博通(昭和村貝野瀬)

【略歴】 群馬大教育学部卒。沼田フェンシングクラブ代表。日本フェンシング協会評議員。県内小中学校に長年勤務し、現在は昭和村立昭和中学校校長。

努力できる子ども

◎バランスのよい負荷を

 最近の日本の社会では、科学技術の進歩により生活が便利になった半面、子育てにとっては、さまざまなひずみが発生している。お金を出せば店で食料が簡単に手に入るし、車を使えば移動も簡単。テレビやコンピューターで簡単に情報が手に入るなど、苦労せずして欲しい物が手に入るため、生きていくために努力する必要性が少なくなってきた。

 また、子どもが親の仕事を見られない状況が多く、親の勤勉さを示す機会も少ない。さらに、電化製品で便利になった家庭内では、子どもが家の手伝いをすることも減ってきた。このような状況の中で、「努力できる子ども」を育成することは至難の業である。

 「努力できる子ども」を育成するためには、まず、努力する必要性がなければならない。努力しなければ手に入らないことを教える必要がある。

 子どもにとって、その何かの一つがスポーツであろう。スポーツにおいて、技術を向上させ、戦術を磨き、試合に勝つためには、練習という努力が必要である。努力とは、克服しなければならない課題(負荷)があり、それを乗り越えようと一生懸命努めることである。しかし、その負荷が易しすぎれば、簡単にできてしまって努力とならないし、逆に難しすぎるとそれが越えられない壁となって立ちはだかり、努力する意欲がなくなってしまう。

 つまり、その負荷に二つのタイプが考えられる。一つは、努力した結果できたという成功感・成就感が得られるものである。努力すれば克服できそうな、少し易しい負荷である。成功体験が次の挑戦への意欲を生み、さらなる努力を引き出すので「正の負荷」と呼びたいと思う。それに対して、努力した結果、できない、あるいは失敗するような課題を与え、挫折感や無力感を味わわせ、次は成功させるぞという意欲を引き出す少し難しい負荷も必要である。これを「負の負荷」と呼びたい。そして、どちらの負荷も必要であり、二つの負荷のバランスが大事である。

 最近は、子どもが失敗しないように、親や指導者が事前に配慮する場合が多いように思われる。その結果、耐性の弱い子どもをつくりだしているのではないだろうか。子どもたちにもっと、負の負荷が必要だと思う。

 私は、子どもたちにフェンシングを指導しているが、この正、負の負荷のバランスを考えて指導している。フェンシングにおいては、勝つのが正の負荷、負けるのが負の負荷である。フェンシング選手にとって、勝つことよりも負けることから得られる効果の方が大きい。自分はなぜ負けたのか、技術的に何が足りないのか、精神面や戦術では何が不足なのかをコーチとともに分析する。そして、次の試合でそれを克服したとき、子どもは大きく成長する。負の負荷の克服がより大きな成就感となり次の努力への意欲につながる。

 フェンシングを通して、努力できる人間を育成したいと考えている。






(上毛新聞 2007年7月9日掲載)