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大鯉(おおごい)野武士軍団総帥(そうすい) 小林 孝次郎(桐生市境野町)

【略歴】 群馬デザインアカデミー(現群馬芸術学園)卒。昨年9月まで、桐生市内で「アイアド企画」を経営。鯉釣り愛好グループの総帥として鯉釣りの普及に努める。

魚道

◎川をつないでこそ役割

 「ヨイショ!」「ヨイショ!」と、見ていると思わず声をかけたくなる。

 そう、川幅いっぱいに延びた低い堰(せき)で段差が五十センチぐらいの水落ちのしぶきの中、ウグイが必死になって飛び跳ねて上流へと上る様子は実にけなげなものだ。

 農業用水の引水利用のため、ほとんどの主要河川にさまざまな堰が設けられている。この堰のように、上流と下流の段差が少なくて水流が堰を超えている所とか、あるいは、川幅全部でなく一部でも水を通して流れを切らさない堰であれば、それほど問題はない。

 しかしながら、私の住んでいる近くを流れる渡良瀬川を例にとると、大きな堰の頭首工が二カ所(太田頭首工と下流の邑楽頭首工)あり、通常はゲートが閉められ、各頭首工の右岸側の一カ所で堰上からわずかな水を落としている。これらの頭首工は、大雨などで増水状態の時や邑楽頭首工に限りサケの遡上(そじょう)の時季にゲートを開放しているが、それ以外では魚たちにとっては道がふさがれている状態だ。

 当然、それぞれの頭首工には魚道が右岸側のゲートの横に付帯設置されているが、魚たちにとって必ずしも優れている道とはいえない。つまり、本来の魚道としての役割を果たしているのか疑問に思える。

 私も今まで幾度となくこれらの魚道を見に行って、長い時には数時間にわたって様子を眺めていたが、コイなど、大きな魚は魚道の入り口付近で泳ぎ回っているだけで、しばらくたって再び見に行っても変わりなく、魚道を上った気配は感じられない。

 昔からいわれている「コイの滝上り」なんて実際にあり得るのだろうか! 渡良瀬川にもコイは遡上してくるが、邑楽頭首工で止まってしまう。激流を苦にしないコイなのにどうしてか。

 ところで、川と海を往復する魚といえば、代表的なのがサケだが、ほかにもアユやサクラマス(稚魚の時はヤマメ、降海型の銀毛ヤマメが海に下り成長してサクラマスとなり回帰する)、マルタウグイ、ウナギ、珍しいモクズガニがいる。ウナギはまさかと思うような場所でも上流へと上るが、アユやサクラマスはそういうわけにはいかない。モクズガニにいたっては最近、堰から上では見たという話をまったく聞いたことがない。本来モクズガニは、かなり上流の沢まで上り、晩秋を迎えると産卵のために海へと下るのだが、このモクズガニでも通過できる魚道があれば、とつくづく思う。

 渡良瀬川の各支流は、小さな堰で違った形の魚道も見ることができるが、中には水のつながっていない所や、ごみが詰まっている所もある。やはり、役割を果たしている魚道とはいえない。できる限り自然に近い状態で川をつないで、それぞれの魚たちにとっても生活しやすい魚道でありたいものだ。






(上毛新聞 2007年7月15日掲載)