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キリンホールディングス常務 松沢 幸一(さいたま市浦和区)

【略歴】 千代田町出身。館林高、北大農学部修士課程修了。1973年にキリンビール入社。キリンヨーロッパ社長、生産統轄部長、常務を経て、2007年7月から現職。農学博士。

水の恵みと保全

◎人とのかかわり考える

 世界経済が拡大し、発展途上国での人口増加や生活水準の向上も相まって、資源需要が急増している。石油・天然ガスなどのエネルギー資源や鉄・銅などの鉱物資源だけでなく、食料・農産物も同様である。資源の安定的確保は世界共通の大きな問題である。

 日本は地下資源に乏しく、食料も輸入に大きく依存している。しかしながら例外的に水資源には恵まれている。日本はモンスーン気候帯にあり、梅雨や台風、冬の日本海側での雪など、降水量が非常に多い。それによって緑豊かな自然が育(はぐく)まれ、大量の水を使う稲作農業が発達、固有の文化がつくられてきた。アメリカや中国、豪州、中近東などの資源大国が国土の乾燥・砂漠化に直面し、水の確保に苦労しているのとは対照的である。

 水は生命の維持に必須のものである。快適で健康的な生活のためにも欠かせない。良い水資源があることは、住民にとって幸せなことであり、大いに誇れることである。

 なかでも群馬県は豊富な水に恵まれている。奥利根・尾瀬などの水源地や、首都圏の水がめである利根川水系はその代表である。そのため群馬には、良質な水を求めて飲料などの企業が数多く立地しており、インフラも整っている。しかし、私が子供のころは、まだほとんどの家庭が井戸水を使って生活していた。そのまま使うと洗濯物が黄ばんだり、砂や木炭などで濾(こ)さなければ煮炊きに使えない地域や家庭も多かった。また、用水路の整備が不十分で、田畑の灌漑(かんがい)に苦労していた地方も多かった。日本でも少し前までは、みんなが水のありがたみを知っていた。

 近年、大都市圏を中心に、ペットボトル入りの水の需要が伸びている。水道水はおいしくないという声も聞く。それでも、蛇口をひねりさえすれば、無色透明で安全な水が、いつでもどこでも安価に使える。今の日本人は水の恩恵を忘れていないだろうか。

 一方、水は地域繁栄のもとでもある。百年以上前から世界の船乗りに「赤道を越えても腐らない」ともてはやされた横浜港の水は、緑豊かな丹沢山系の道どう志し川を水源にしていたことによるという。今でも横浜市は山梨県に約二千八百ヘクタールの広大な水源涵(かん)養林を、専従職員やボランティアの力で維持している。また、当社が輸入販売しているフランス産ミネラルウオーターの水源地では、約四千ヘクタールにわたって水質に影響を与えるような産業が規制されている。地域住民も農薬や化学肥料を使わず、水質保全に協力している。その結果、そこで産する水は現在八十カ国以上に輸出され、世界的なブランドとして地元経済を大いに潤している。

 私の会社はビールや飲料など水の恵みによった事業をしている。そのため、工場では節水や、使った水をきれいにして排出することに日々努めている。また、工場のある水源地を中心に社員・家族などが地域の方々と一緒になって、植林や森の手入れ、下草刈りなど、水を守る活動を行っている。日本の貴重な資源である水を守り、将来も維持していかねばならない。何をなすべきか皆で考え、できることから始めたい。






(上毛新聞 2007年7月25日掲載)