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関東学園大経済学部教授 高瀬 博(太田市東別所町)

【略歴】 東京学芸大大学院修士課程修了。日本体育学会群馬栃木支部幹事、日本肥満学会会員。著書に「ライフスタイル自己改革講座」など。千葉県柏市出身。

子供とスポーツ

◎親子でキャッチボール

 若者の動作が、ぎこちなく感じられるときがある。特に、ボール投げや、テニスのサーブなどの場面で、いわゆるオーバーハンド(上手投げ)といわれる動作である。人間の基礎的運動パターンは、立つ・寝るなどの姿勢制御運動、歩く・走るなどの移動運動、打つ・投げるなどの操作運動の三つからなっていて、上手投げなどの操作運動は、立つなどの姿勢制御運動などに比べて、経験によって能力に差が生じやすい。

 このような若者の動作のぎこちなさの背景には、幼少時のキャッチボール経験の少なさがあるのではないだろうかと思い、大学生を対象に調査を行ってみた。その結果、意外にも「親子でキャッチボールをした経験がある」と答えたのは、約97%とたいへん高い割合を示した。どうやら、親子キャッチボールは、子供の成長を喜び、親子のきずなを深める儀式として行われ、その後は野球少年を除き、あまり行われなくなるようである。少年スポーツの多様化の中で野球が一つの選択肢でしかなくなったこと、道路・公園・校庭などで行いにくくなったこと、ゲームなどの普及でやりたくても相手がいなくなったこと、などが主な理由であろう。

 基礎的な運動能力や経験を補うため、近年、フィットネスクラブには、スイミング、ダンス、バレエ、空手など多くのキッズプログラムが用意されており、月謝を捻出(ねんしゅつ)する親心には頭の下がる思いがする。また、地域の「スポーツ少年団」も日本体育協会が一九六二年に設立して以来、定着しつつあり、保護者の応援の過熱ぶりも話題となる。スポーツができるという有能感をわが子が持ち、学業や人格形成の面にも役立ってほしいという親心である。身体面の発達は部位によって速度が異なるが、運動をつかさどる神経機構は、比較的早くから発達する。幼児期から小学生中学年にかけて、神経・筋コントロール能力などのいわゆる運動神経の向上が著しいので、この時期に身体の各部分の動きの方向、タイミング、力の発揮とリラクセーション、リズム感など運動にかかわる感覚を養っておくことが望ましい。フィギュアスケート、器械体操、ダンスなどで小さいころからの英才教育が有効なのはそういう理由からであろう。

 子供がキャッチボールに興味を示す時期は短いかもしれないが、高いお金を出してスポーツを経験させる前に親子でチャレンジしてみてはいかがだろうか。幼いころから「ボールころがし」や「的あて」などを経験させ、キャッチボールへと進む。野球やテニスなど高レベルのスポーツへの基礎固めとなるだけでなく、親子のコミュニケーションを深めることにつながり、なによりも、相手を思いやり、相手の胸をめがけて投げ込む心は、人として何よりも大切であろう。






(上毛新聞 2007年8月3日掲載)