視点 オピニオン21
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群馬大社会情報学部教授 森谷 健(前橋市鳥取町)

【略歴】 同志社大卒、関西大大学院修了。2003年から現職。専門は地域社会学・地域情報論。観音山ファミリーパークで活動するNPO法人KFP友の会の理事長。

花火・犬・選挙

◎音風景を聞いてみる

 夏ですね。夏といえば花火でしょう。各地で行われる花火大会、美しく迫力ある花火が楽しみです。線香花火もいいものです。そういえば、群馬にはゆかしい線香花火もありましたね。

 でも、わが家では、別の意味で「夏といえば花火」なのです。

 犬はだいたい大きな音、破裂音が苦手ですが、わが家の犬もご多分に漏れません。私の家のすぐ近くに、中学校区の市民運動会を行う程度のグラウンドがあります。夏になると、深夜でもロケット花火がこのグラウンドで打ち上げられます。ロケット花火の破裂する音が聞こえようものなら、しっぽを後ろ足の間に挟み込み、がたがたと震え始めます。二発、三発と続けば、部屋の中に入れてくれと大騒ぎします。あまりの騒ぎに私は、犬を抱き上げ、ひざに乗せて、胸やらあごの下やらを撫(な)でてやります。五分もそうやっていれば、犬は落ち着きを取り戻してくれます。

 夜空に響く大輪の花火の音、小さな火の玉からこぼれる小さな火花の音、突然耳に飛び込む破裂音、花火にも、いろいろな音があるものですね。

 七月に二つの大きな選挙がありました。知事選挙と参議院選挙だったためか、選挙カーの拡声器から候補者の名前を連呼する声はあまり聞かなかったように思います。市町村議選挙よりも静かだったように思いますが、耳から候補者の名前が入らないだけ、逆に、今回の二つの選挙では、選挙公報やチラシ、テレビでの政見放送をよく見たような気がします。マニフェストなるものが配られ、新聞各紙が候補者の政策や考え方の違いをさまざまに工夫して浮き彫りにしているとき、「おくつろぎのところ誠に申し訳ありません。○○でございます。○○はがんばっております」と大音量を発する手法は効果的なのでしょうか。

 夏には夏の音があります。風鈴の音、涼しい渓流の音、大海原を感じる波の音。かき氷を削る音も楽しいです。夏が過ぎれば、虫の声、遠くから風に乗って聞こえる運動会の歓声。他方、改造したバイクや車の排気音、電車やバスの中での電話の声、駐車場での空ぶかしや長々続くアイドリング。心地よくない音もあります。

 「日本の音風景一○○選」として一九九六年に当時の環境庁が「全国各地で人々が地域のシンボルとして大切にし、将来に残していきたいと願っている音の聞こえる環境(音風景)」を全国で選定しました。県内では吉井町の創造学園大中山キャンパスにある水すい琴きん窟くつが選定されているようです。

 残したい音、残したくない音、群馬の音風景を考えてみるのはどうでしょうか。風に木の葉がすれる音、のどかさが伝わる牛の声、市街地の活気ある雑踏の音、残したい音はたくさんありそうです。残したくない音の多くは、ほかならぬ自分たちが出している音でもあるようです。

 そして、群馬の音風景を考えることは、聞こえない人や聞こえにくい人にとっての群馬を考える契機にもなるかもしれません。






(上毛新聞 2007年8月5日掲載)