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「えほんのへや」主宰 三澤 章子(桐生市菱町)

【略歴】 「群馬大教育学部卒。渡良瀬養護学校などに勤務。オーストリアのカール・オルフ研究所に留学後、フリーの音遊び講師として活動。昨年6月から「えほんのへや」主宰。

赤ちゃんと絵本

◎生きるエネルギーに

 赤ちゃんのための絵本を集めた「えほんのへや」を昨年の六月から始めた。なぜ赤ちゃんに絵本なのか? 言葉の意味をまだ理解していない赤ちゃんは、私たちのしゃべっている言葉をメロディーとして聞いている。だから「ブランコ」も口を閉じてハミングで「ウウウウ」も同じように聞こえるそうだ。そんな赤ちゃんに絵本はまだ早いのではと考える人もいるだろう。でもだからこそ赤ちゃんに絵本なのだ。

 フィンランドで赤ちゃんの遊びを三カ月経験。帰国後すぐに埼玉の保健センターで赤ちゃんとお母さんのふれあい遊びを始めた。ゼロ歳児、それも六カ月から九カ月の赤ちゃんとの遊びだ。なにをしようと考えたが、私の選んだのはわらべ歌、お母さんとダンス(といってもだっこされた状態)そして絵本。私が絵本を遊びに入れたいと思ったのは、わらべ歌と絵本がとても近い存在と感じたからだ。どんな絵本でもよいというわけではない。物語のある絵本は、もちろん難しい。でも「ピョン」とか「ビリビリ」とか「ガチャガチャ」などのおもしろい音や繰り返しのリズムの楽しい絵本は、読んでいると自然に音楽になる。

 ついでに動きもつけたくなったりする。まさにわらべ歌。わらべ歌の好きな赤ちゃんは、きっと絵本が好きだ。その確信は当たった。赤ちゃんは、絵本を読み始めると好奇心いっぱいの目でじっとこちらを見るのだ。そしてそんな様子に驚くお母さんが多いことに気づいた。

 もっと赤ちゃんと絵本が近いものになるといいなあと思った。わらべ歌を知らなくても絵本なら読んであげたり、お話をしてあげるだけで赤ちゃんとふれあえるのだ。本屋さんに行っても図書館に行っても赤ちゃんに合う本を探すのは、なかなか難しい。そこで赤ちゃんの本をたくさん置いて自由に読むことのできる「あひるのこ」を桐生で始めた。週二回、午前と午後に赤ちゃんたちがやってくる。毎回絵本とわらべ歌で遊んでいる。同じ絵本を繰り返して読んでいると、先を予想して「バイバイ」という前に手を振ったり、一歳を過ぎるとおもしろい音を同じように発してみたり、言葉のリズムに合わせて体を揺すったりする。赤ちゃんの豊かな表現をひきだす絵本はすごい。

 実は今、この絵本やわらべ歌を妊婦さんや未熟児の赤ちゃんに生かすことができないかと思っている。特に未熟児の赤ちゃんは、保育器に入れられ、その間、触れあったり、お母さんの声を聞くことが難しい。お母さんにも赤ちゃんにもつらい時期だ。状態がいい時、保育器の赤ちゃんに絵本を読んであげたり、わらべ歌を歌ってあげたりできないだろうか。赤ちゃんは、お母さんの声が大好きなのだから。しかも赤ちゃんの好きなわらべ歌や絵本なら、なおいいと思う。そして保育器から出たら、たっぷりわらべ歌や絵本で遊んでほしいと思っている。楽しいことは赤ちゃんの生きるエネルギーになるはずだ。






(上毛新聞 2007年8月8日掲載)