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体験民宿「寺子屋やひろ」代表 飯出 八紘(上野村乙父)

【略歴】 高崎商高中退。会社勤めの後、上野村に帰郷し、上野物産を創業。2001年の国民文化祭を機に設立の「おてんまの会」初代会長。04年に体験民泊を始めた。

薬になる動植物

◎自然の力を理解して

 私は五人きょうだいの末っ子でありました。小さい時から小柄で虚弱体質であったので自然と体に良いとされる物を食べさせられたようです。しかし、夏になると下痢をしたりしてやせてしまいました。これは通称夏やせといわれ、当時の子供にはあまり珍しいものではなかったようでした。

 初夏になると必ず食べたり飲んだりする物があります、一番抵抗のあったのはマムシです。これをいろりで串焼きにして毎日二〜三センチずつ食べるのですが、どうしても食べる時にあの銭形模様のヘビが目の前でチラチラするのです、しかし、いざ食べてみるとこれが香ばしくてなかなかの珍味です。ひと夏に毎年二匹くらい食べた記憶があります。

 また、このマムシを生け捕りにして、少量の水を入れた瓶の中に入れ、一カ月くらい食べ物を排泄(はいせつ)させた後、焼酎に漬けて打ち身やねんざの湿布薬として利用したものでした。

 次なる物はゲンノショウコです。これは陰干ししたゲンノショウコを水と一緒にやかんの中に入れ、十分の一ぐらいになるまでせんじますと、とても苦い汁ができます。それを毎日少しずつ飲むのですが、この時は飲んだ後に砂糖が食べられるのが楽しみでした。

 後で分かったことですが、短時間せんじた場合は便秘に良く、長時間の場合は下痢に効くといわれています。このようなことを書くと、今の人たちには想像もつかないことだと思います。しかし、今から六十年くらい前の山村の現実です。

 このようなことは親の管理の下で行うので心配はないのですが、子供たちだけで行うには危険なこともつきまといます。ヘビに噛かまれたり、木から転落したり、刃物でけがをしたりと、周りには危険がいっぱいひそんでおりました。幸いにして私の周りには一命を落とすような者はありませんでした。

 さて、本題に戻りますが、民間薬の王様は何といってもクマの胆のうです。昔はクマの胆イコール腹痛の薬といわれましたが、最近は万能薬といわれております。昔は金一匁(もんめ)(三・七五グラム)とクマの胆一匁が同じ重さで同価格だといわれました。現在でもなかなか手に入りにくい物です。

 植物はほとんどが水洗いや皮をはぎ、日干し、陰干しなどにして保存し、その都度せんじたり、粉末にして使用したようであります。また、奧多野などの薬草を調べてみると、圧倒的に胃や腸などに効能のある物が多く見受けられます。

 最近、近所の古老からタカトウグサ(高遠草)なる物が胸焼けに良く効くという話をうかがいました。これはほかの薬草と違い、乾燥させたりせんじたりする必要はありません。生葉を一、二枚口に入れ、噛めばとても苦いですが、即効性のある薬草だそうです。

 私も試しに噛んでみました。並みの苦さではありませんでしたが、しばらくして胸焼けが治まっていました。このような身近な草木がとっさの時に役立つことを今の子供たちにも知っていただきたいものです。






(上毛新聞 2007年9月9日掲載)