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関東学園大経済学部教授 高瀬博(太田市東別所町)

【略歴】 東京学芸大大学院修士課程修了。日本体育学会群馬栃木支部幹事、日本肥満学会会員。著書に「ライフスタイル自己改革講座」など。千葉県柏市出身。

「良き敗者であれ!」

◎スポーツマンシップ

 大阪で行われた「世界陸上」が閉幕し、一流選手の活躍に多くの人が感銘を受けた。筆者は、スポーツ指導者(日本スポーツ協会公認スポーツ指導者)を育成する者の一人として、競技内容と同時に、選手やコーチのスポーツマンとしての態度・行動に関心があった。

 各国を代表する人たちは皆、称賛に値したが、特に二人の日本人選手の試合後の姿が印象に残った。一人は、男子ハンマー投げの室伏広治選手。アテネ五輪金メダリストとして、国民の期待は大きかったが、六位入賞に終わり、本人としては不本意だったかもしれない。しかし、競技試合後の、積極的に勝者をたたえ、応援してくれた観客に笑顔で応える姿はすがすがしく、王者の風格すらも感じさせた。もう一人は女子一万メートル終了後の、福士加代子選手である。靴を脱がされるというアクシデントを言い訳にせず、満面の笑顔で競技を振り返る前向きな姿勢は、これまでのプレッシャーを感じすぎると思われてきた日本人選手の中にあって、太陽のように輝いていた。

 スポーツにかかわる規範は、競技ルールなどの「法的規範」と、エチケット・マナーなどの「道徳的規範」に分けられる。「道徳的規範」は守れなくても具体的制裁は加えられないが、スポーツマンとしての品位(スポーツマンシップ)が疑われる。「スポーツマンシップ」は「フェアプレー」「競争相手及び審判の尊重」「感情の抑制」などから構成され、スポーツ愛好者がとるべきもっとも基本的な態度・理念である。スポーツの歴史の中で「勝利至上主義」の波にもまれ揺らいできたが、間違いなくスポーツの本質であり、スポーツの場にとどまらず、人間が生きていく上で総合的な人格として重視されるものである。

 その中で特に重要なのが「フェアプレー」で、競争相手、味方、審判、観客を尊重し、思いやり、勝利に対しては謙虚に振る舞い、敗北時には勝者を尊敬したたえる態度が必要とされる。スポーツは永遠に勝ち続けることはなく、負けを味わうことが度々ある。負けをどうとらえるかが大切であり、負けたときの態度こそが重要である。このことはスポーツの場面にとどまらず、受験、就職など一生を通じてチャレンジの場に当てはまる。スポーツ指導者は、技術指導もさることながら、「グッド・ルーザー(良き敗者)であれ!」という精神を子供たちに身につけることが重要であると強く認識してほしい。

 冒頭に紹介した二人の選手を「ルーザー(敗者)」の部類に入れるのは失礼であるが、間違いなく「グッド・スポーツマン」であり、北京五輪での活躍と、将来は指導者として、社会人として一流の道を歩むに違いない。

 未来の代表選手たちが、世界レベルの選手の「一流のプレー」だけでなく「一流の態度」を参考にしてくれたら幸いである。






(上毛新聞 2007年9月16日掲載)