視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
アートプランナー 梅津 宏規(前橋市野中町)

【略歴】 仏エクサンプロバンス芸術大学院研究課程を修了し、DNSEP(仏国家上級表現資格優秀賞)の学位取得。昨年から県美術クラブ(県画商組合)代表幹事。

多民族国家フランス

◎同一言語が文化の源

 最近、女優の吉永小百合さんが登場し「ここは近代絵画の故郷です」と宣伝する、ある液晶テレビのコマーシャルをご覧になられたことがあるでしょうか。

 当時そのままに保存されている近代絵画の父・セザンヌのアトリエ。セザンヌが描き続けた聖なる山、サントビクトワール山を望み、噴水がいたるところにある水の都。そこはまさに私が画学生時代、七年間留学先として生活した第二の故郷、南仏の美しい街、エクサンプロバンスです。

 もう十年近く前、小説家ピーター・メイル氏が執筆した『南仏プロヴァンスの12カ月』によって、それ以前から既に人気が高かったものの、この小説の話題とともに世界的なブームになり、日本でも知られるようになったプロバンス。

 昔からパリに象徴されるフランスは憧(あこが)れの地でありながら、それとは裏腹に「プライドが高く融通のきかない国民」「英語で話しかけると分かっているのにフランス語で答えてくる国民」などフランスに対して、高慢で無愛想なイメージがあります。確かにそういう一面もありますが、私は沢山(たくさん)の方々に言います。「フランス人ほどお人好しで、お節介(せっかい)なほど親切な国民はいないです」と。

 フランスは歴史的に多民族国家で、言語的にもまったく異なる人たちが住んでいます。クレープが郷土料理である北西部のブルターニュ地方は、第二次世界大戦時、同国民でありながら、フランス兵によって大量殺戮(さつりく)が行われた歴史があります。独自民族のブルトン人の言語がドイツ語に似ていたため、敵国ドイツ人と間違われたのです。

 フランスはヨーロッパの中でもその地理的な有利性から、常に隣接国からの脅威にさらされてきました。だからこそ多民族による国家が国家として存続するには「自国の文化の源である同一言語を堅持すること」が最も重要であることを、身をもって経験してきているのです。

 多くの日本人が「フランスは…だから」と語る場合、その殆(ほとん)どの根拠はパリであり、それはパリこそ多民族による言語侵略の脅威に本能的に反応する街だからです。現にフランス人でさえ「あそこはパリであってフランスではない」と言うほど特別な街です。

 さて、多くの印象派の画家やマチス、ピカソ、シャガールなどが生涯最後の地に選んだ南仏は、眩(まぶ)しい光と青い空、褐色の大地が美しいコントラストをつくり出しています。そして歴史と文化を積み上げてきた街は色とりどりの花やパラソル、そこを行きかう人々の快活な姿を演出し、生きることの素晴らしさや喜びで満ち満ちています。

 私たちの社会は、知らず知らずのうちに、さまざまな我欲に翻弄(ほんろう)され、余分を求め、些細(ささい)なことに一喜一憂しているような気がします。今でもしばしばプロバンスを訪ね「南仏の生きざま」を見せられる時、精いっぱい楽しく生きることの幸せと大切さを思い出させてくれるのです。

 ぜひ皆さんも一度南仏プロバンスを訪ねてみてはいかがでしょうか?






(上毛新聞 2007年9月18日掲載)